- 聴衆の態度は、話し手の気分や集中力、身体の反応に影響を与えることがある。
- 非支持的な聴衆の前では、話す速さや声の出し方などが変わり、疲れや不安が増えることもある。
- 研究は、環境の工夫と練習で公の場の話す力を高められる可能性を示している。
聞き手の態度は、話し手の中で何を起こしているのか
人前で話すとき、私たちは「内容をどう伝えるか」だけでなく、無意識のうちに「どう見られているか」も気にしています。
うなずいてくれる人がいれば安心し、視線をそらされると落ち着かなくなる。
こうした小さな反応の積み重ねが、話し手の気分や集中力を左右することを、多くの人が感覚的に知っています。
では、その影響は、気分の変化だけなのでしょうか。
それとも、もっと深いレベルで、心や身体の働きにまで及んでいるのでしょうか。
この問いに対して、没入型VR(仮想現実)を使った実験から、具体的な手がかりが示されました。
公の場で話すことは「社会的に評価される状況」
研究者たちは、公の場でのスピーチを、単なる情報伝達ではなく、社会的に評価される状況だと捉えています。
話し手は、
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聞き手が自分に関心を持っているか
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好意的か、冷淡か
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退屈していないか
といったことを、表情や姿勢、視線などの非言語的なサインから読み取ろうとします。
そしてその解釈によって、
「うまくいっている」
「失敗しているかもしれない」
といった内的な評価が生まれます。
この評価が、緊張、不安、やる気、集中力などに影響を与えると考えられています。
VRを使って「聞き手の態度」を操作する
アメリカ・ミシガン州立大学(Michigan State University)コミュニケーション学部と、パデュー大学(Purdue University)ブライアン・ラム・コミュニケーション学部の研究チームは、人前で話すとき、聞き手の態度が話し手の心や身体、行動にどのような影響を与えるのかを、没入型VR(仮想現実)を使って詳しく調べました。
参加者はVRヘッドセットを装着し、学会発表を想定した8〜12分のプレゼンテーションを行います。
その際、2種類の仮想聴衆が用意されました。
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支持的な聴衆
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非支持的な聴衆
支持的な聴衆は、話し手の方を見て、うなずき、落ち着いた姿勢で座っています。
一方、非支持的な聴衆は、スマートフォンを見たり、よそ見をしたり、眠そうな様子を見せます。
話し手は、同じ形式の発表を、この2種類の聴衆の前で行いました。
何を測定したのか
研究では、三つの側面を同時に測定しました。
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主観的な体験(不安、感情、努力感など)
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行動(話すスピード、身体の動き、視線など)
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生理指標(心拍、呼吸、瞳孔の大きさ、脳活動など)
これにより、「どう感じたか」だけでなく、「身体がどう反応していたか」まで捉えることができます。
非支持的な聴衆の前では「より消耗する」
結果として、参加者は非支持的な聴衆の前で話すとき、
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より多くの認知的努力が必要だと感じる
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身体的に疲れると感じる
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社会的なプレッシャーが大きいと感じる
と報告しました。
つまり、内容は同じでも、聞き手の態度が違うだけで、消耗の度合いが変わることが示されました。
不安と感情の変化
非支持的な聴衆の前では、
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ネガティブな感情が増える
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緊張感が高まる
ことも確認されました。
一方で、「自分が支配的に感じるかどうか」といった感覚には、大きな違いは見られませんでした。
これは、不安や緊張が高まっても、「自分が場をコントロールできている感覚」が必ずしも失われるわけではないことを示唆しています。
声と話し方に現れる変化
行動面では、非支持的な聴衆の前で、
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話すスピードが遅くなる
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声の興奮度が高まる
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声の支配性がやや強くなる
という変化が見られました。
研究者たちは、これを補償的な反応と考えています。
うまく伝わっていないと感じたとき、
無意識に「もっとはっきり話そう」「強く話そう」と調整している可能性があるのです。
身体の反応は一様ではない
興味深いことに、
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心拍数
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呼吸数
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瞳孔の大きさ
といった指標には、聴衆の違いによる明確な差は見られませんでした。
これは、ストレスや緊張が常に同じ身体反応として現れるわけではないことを示しています。
心理的な緊張が、声や行動には現れても、心拍には表れない場合もあるのです。
もともとの不安傾向が影響する
発表前からスピーチ不安が高い人ほど、非支持的な聴衆の前で、
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身体の動きが小さくなる
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表現が乏しくなる
傾向がありました。
つまり、個人の特性と環境が組み合わさって反応が生まれることが示唆されます。
VR体験そのものの効果
参加者は、VRでの発表体験を終えたあと、全体として不安レベルが低下しました。
特に、もともと不安が高い人ほど改善が大きくなりました。
また、多くの参加者が、このVR体験を「他人にも勧めたい」と評価しました。
この研究が示していること
この研究が伝えている大きなポイントは、次の点です。
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聴衆の態度は、話し手の内面と行動を静かに、しかし確実に変える
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不安は「気の持ちよう」ではなく、社会的環境との相互作用で生まれる
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公の場で話す力は、訓練と環境調整によって改善できる可能性がある
人前で話すのが苦手なのは、意志の弱さではありません。
私たちは本来、周囲の反応に敏感な社会的存在です。
この研究は、そうした人間の性質を前提に、どうすれば安心して話せる環境を作れるのかを考えるための土台を示しています。
公の場で話すことがつらいと感じる人にとって、
「自分だけの問題ではない」と気づくこと自体が、ひとつの支えになるのかもしれません。
(出典:scientific reports DOI: 10.1038/s41598-026-38915-8)

