なぜ私たちは「押したくなるボタン」を押してしまうのか

この記事の読みどころ
  • 自分で動かしたときの手応えは、学習として残ることがある。
  • その場で光るなどの手応えは、動作を速くさせる効果がある。
  • 手応えのある行動は、次に同じ動作を選ぶ動機づけになる。

自分で動かしたという感覚は、どこまで行動を変えるのか

私たちは、ボタンを押した直後に画面が光ったり、音が鳴ったりすると、不思議と少し心地よさを感じます。
「今のは自分が起こした」という感覚が、自然と生まれるからです。

この感覚は、心理学では「エージェンシー(自分が行為の主体であるという感覚)」と呼ばれます。
日常ではあまり意識しませんが、この感覚は、学習、運動、選択といったさまざまな行動に深く関わっていると考えられてきました。

では、自分で動かしたという感覚は、私たちの行動をどのように変えているのでしょうか。
単に「その場でやる気が出る」だけなのか。
それとも、経験として蓄積され、後の行動に影響を与えるのでしょうか。

この問いに取り組んだのが、イスラエルのテルハイ・カレッジ心理学部にあるソーシャル・アンド・モーター・コグニション・ラボと、ハイファ大学の特別集団アドバンスド研究・臨床センターの研究チームです。

研究者たちは、「自分で動かしたという手応え」が、少なくとも三つの異なる形で行動に影響する可能性があると考えました。

  • 学習として残る影響

  • その場の動きを直接よくする影響

  • ある行動を選びたくなる動機づけ

この三つが同じ仕組みなのか、それとも別々なのかを、実験によって丁寧に検討しています。


「結びつきが強くなる」という考え方

この研究の中心には、「刺激と反応の結びつき」という考え方があります。

たとえば、

  • 赤い図形が出たら左のキーを押す

  • 青い図形が出たら右のキーを押す

といった対応関係を繰り返していると、やがて迷わず素早く押せるようになります。
これは、特定の刺激と特定の反応が、頭の中で強く結びついた状態です。

研究者たちは、

自分の行動の直後に目に見える結果が返ってくると、この結びつきがより強くなるのではないか

と考えました。

もしそうであれば、あとから条件が変わっても、「かつて手応えのあった組み合わせ」は有利なまま残るはずです。


実験の工夫:学習とその場の効果を切り分ける

研究チームは、実験を二つの段階に分けました。

獲得フェーズ

ある条件では、正しくキーを押すとすぐに画面が光ります。
別の条件では、何も起こりません。

テストフェーズ

今度は、「どの刺激だったか」ではなく、「どのキーを押したか」によって光るかどうかが決まります。

この構造によって、

  • 過去の経験として残った学習の効果

  • その場で光ることによる即時的な効果

を分けて観察できるようになっています。


実験1:その場の手応えと、後に残る学習

参加者は、色つきの円の中に表示される左右の矢印を見て、対応するキーをできるだけ速く正確に押します。

獲得フェーズでは、ある色と反応の組み合わせだけ、正解するとすぐに白くフラッシュします。

その後のテストフェーズでは、過去の色は関係なくなり、押したキーに応じてフラッシュが起きます。

見えてきた二つの効果

1つ目は、学習として残る効果です。
かつて即時フラッシュが結びついていた刺激と反応の組み合わせは、テストでも反応が速く、正確でした。

2つ目は、その場での運動の促進です。
テスト中にフラッシュが起きるキーは、全体的に反応が速くなりました。

つまり、

  • 過去の経験が残した結びつき

  • その瞬間の手応えによる促進

は、別々に存在している可能性が示されたのです。


実験2:反応が遅れるとどうなるのか

次の実験では、「すぐ光る」条件に加えて、「600ミリ秒遅れて光る」条件が導入されました。

ここで研究者が注目したのは、時間の近さです。
行動の直後に起きる出来事ほど、「自分が起こした」という感覚が強くなると考えられています。

結果は明確でした。

  • すぐ光る条件で結びついた刺激と反応は、やはり学習として有利に残る

  • テスト中でも、すぐ光るほうが遅れて光るより反応が速い

時間的に近い手応えほど、行動に強く作用することが示されました。


実験3:人は「手応えのある行動」を選びたがるのか

三つ目の実験では、参加者は左右どちらのキーを押してもよく、「ランダムに選ぶ」よう指示されます。

それでも、ある色と反応の組み合わせでは即時フラッシュが起きるように設定されました。

すると、参加者は次第に、フラッシュが起きやすいほうのキーを選ぶ割合が増えていきました。

つまり、人は無意識のうちに、

「押すと何かが起きる行動」

を好むようになることが示されたのです。


三つの働きは別々に存在する

研究全体を通して、研究者たちは次のように整理しています。

  • 手応えは、刺激と反応の結びつきを強める

  • 手応えは、その場の動きを速くする

  • 手応えは、その行動を選びたくさせる

これらは似ているようで、同一の仕組みではない可能性があります。


日常生活への静かな示唆

この研究は、「ご褒美を与えれば人は動く」という単純な話ではありません。

むしろ、

自分の行動が世界に影響したと感じられるかどうか

が重要であることを示しています。

  • 子どもが操作するとすぐ反応するおもちゃ

  • ボタンを押すと即座に変化が返るアプリ

  • 小さな行動にも手応えが返る環境

こうした設計は、行動を「続けたくなるもの」にする力を持っているのかもしれません。


行動の裏には、感覚の積み重ねがある

私たちは普段、自分の行動を「意志」や「性格」で説明しがちです。

しかしこの研究は、
もっと手前にある、小さな感覚の積み重ねが、行動の方向を静かに形づくっている可能性を示しています。

自分で動かした。
何かが起きた。

その繰り返しが、私たちの選択や学びを、少しずつ方向づけているのかもしれません。

(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2026.1730025

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