AIをどう見るかで、将来の働き方は変わる

この記事の読みどころ
  • AIを信頼すると内発的動機づけが高まり、自分で学びを進めるプロティアンキャリア志向が強まる可能性がある。
  • 有能感と自律感を満たすと内発的動機づけが高まり、AIを道具として使うことが自分の選択につながる。
  • 将来不安が大きい学生ほどこの変化が進みやすく、教育機関はAIの使い方とキャリア支援を組み合わせるべきだと示される。

AIを「信頼すること」は、キャリアの形をどう変えるのか

――大学生の内発的動機づけとプロティアンキャリアをめぐる心理メカニズム

AI(人工知能)が急速に社会へ入り込み、仕事のあり方が大きく変わりつつあります。
この変化のただ中にいるのが、これから労働市場に入っていく大学生たちです。

「将来、仕事は残るのか」
「AIに代替されないスキルとは何か」
「どんなキャリアを選べばいいのか」

こうした不安が広がる一方で、最近のキャリア研究では、プロティアンキャリアと呼ばれる考え方が注目されています。
これは、会社に依存せず、自分で方向を決め、自分の価値観を軸にキャリアをつくる姿勢を指します。

では、AIが身近になった時代において、
大学生がこのプロティアンキャリア志向をもつようになる背景には、どのような心理的仕組みがあるのでしょうか。

今回の研究は、
**「AIをどれくらい信頼しているか」**という感覚が、
**「内発的動機づけ」**を通じて、
大学生のプロティアンキャリア志向を高めることを明らかにしました。

さらに、将来の仕事に対する不安の強さによって、その影響が変わることも示されています。


プロティアンキャリアとは何か

プロティアンキャリアとは、次の2つの特徴をもつキャリア観です。

1つ目は、自己主導性
誰かに決めてもらうのではなく、自分で学び、自分で選び、自分で修正していく姿勢です。

2つ目は、価値観志向
給与や肩書きよりも、「自分にとって意味があるか」「成長できるか」「納得できるか」を基準に進路を考えます。

研究者たちは、AIによって仕事が流動化する時代では、
こうした柔軟で自律的なキャリア観が、特に重要になると考えています。


注目されたのは「AIへの信頼」

これまでの研究では、

・AIをどれくらい使っているか
・AIについてどれくらい知っているか

といった点が多く調べられてきました。

しかし今回の研究が重視したのは、**AIへの信頼(AIトラスト)**です。

AIトラストとは、
「AIは役に立つ」
「AIは信頼できる」
「AIは自分の将来にプラスになる」
と感じている程度を指します。

単に使っているかどうかではなく、
心の中でどう評価しているかに焦点を当てた点が特徴です。


内発的動機づけというカギ

研究では、AIトラストとプロティアンキャリアのあいだをつなぐ要因として、
内発的動機づけが設定されました。

内発的動機づけとは、

・お金のため
・評価のため

ではなく、

・成長したい
・学びたい
・できるようになりたい

という内側から湧き出る意欲のことです。


なぜAIを信頼すると、内発的動機づけが高まるのか

研究者たちは、自己決定理論という心理学理論を用いて説明しています。

人は、

・自分にはできるという感覚(有能感)
・自分で選んでいるという感覚(自律感)

が満たされると、内発的動機づけが高まるとされています。

有能感が高まる

AIを信頼している学生は、

「AIを使えば効率よく学べそう」
「スキル習得のハードルが下がる」

と感じやすくなります。

その結果、
「自分でもやれそうだ」
という感覚が強まります。

自律感が高まる

AIを信頼している学生は、

「どんなスキルを学ぶか」
「どの分野を調べるか」

を自分で選べると感じます。

AIが道具として使えることで、
他人や組織に依存しすぎずに探索できるからです。

この有能感と自律感の両方が満たされることで、
内発的動機づけが高まります。


内発的動機づけがプロティアンキャリアを育てる

内発的動機づけが高い学生は、

・自分から学ぶ
・変化を避けずに試す
・失敗しても修正する

といった行動を取りやすくなります。

これはそのまま、

・自分でキャリアを設計する
・価値観を軸に選ぶ

というプロティアンキャリアの特徴と重なります。

研究では、
内発的動機づけが高いほど、プロティアンキャリア志向も高いことが統計的に確認されました。


内発的動機づけは「橋渡し役」になる

分析の結果、

AIトラスト
→ 内発的動機づけ
→ プロティアンキャリア

という経路が成り立つことが示されました。

つまり、

AIを信頼している
だけでは不十分で、

「やってみたい」「成長したい」という気持ちが生まれてはじめて、
キャリア観が変わる
ということです。


将来不安が強いほど、影響は大きくなる

さらに興味深いのが、**仕事の不安(ジョブインセキュリティ)**の役割です。

ジョブインセキュリティとは、

「将来、仕事が安定しないかもしれない」
「職がなくなるかもしれない」

という感覚です。

不安が強い学生

将来不安が強い学生ほど、

「AIを頼りにスキルを身につけたい」
「AIを使って備えたい」

という気持ちが強くなります。

そのため、
AIトラストが内発的動機づけへ与える影響がより強くなります。

不安が弱い学生

将来不安があまりない学生では、
AIトラストの影響は比較的弱くなります。

危機感が小さいため、
「今すぐ動かなくてもいい」と感じやすいからです。


研究が示す全体像

この研究は、次の流れを示しています。

  1. AIを信頼する

  2. 成長したいという内発的動機づけが高まる

  3. 自分でキャリアをつくる姿勢が強まる

そして、
将来不安が強いほど、1→2→3の流れが加速します。


この結果が伝えていること

この研究は、

「AI時代に生き残れる人/生き残れない人」

といった単純な二分法ではありません。

むしろ、

AIをどう感じているか
不安をどう意味づけているか

といった、心のあり方が、
キャリア形成に深く関わっていることを示しています。


学生への示唆

・AIを「脅威」だけでなく「道具」として体験する
・小さく使ってみる
・試行錯誤する

こうした経験が、
内発的動機づけを育てる可能性があります。


大学・教育機関への示唆

・AIの使い方だけでなく、
「キャリアとどう結びつくか」を示す教育
・将来不安の強さに応じた支援

が重要であることが示唆されます。


おわりに

AI時代のキャリア形成は、
「正解を当てること」ではなく、
自分で問い続け、更新し続けるプロセスになりつつあります。

今回の研究は、
そのプロセスの出発点に、
AIへの信頼と内発的動機づけがあることを静かに示しています。

キャリアとは、
外から与えられるものではなく、
内側から育っていくものなのかもしれません。

(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1749655

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