短い動画が「学習」に向かない理由を、脳は知っている

この記事の読みどころ
  • 短い動画を連続で見ると、記憶の正確さが低下しやすく、思い出すときの脳の働きが変わることが分かった。
  • クラウストラム、尾状核、中側頭回の活動が低下し、情報の統合や注意・意味理解が弱まるとされる。
  • 短い動画の多用は脳の連携を崩しやすく、意味づけが難しくなる場合があると示唆される。

短い動画は、なぜ記憶に残りにくいのか

断片的な学習が脳の「思い出す仕組み」をどう変えるのか

私たちは今、かつてないほど「短い動画」に囲まれて生活しています。
数十秒から数分で完結する映像を、次々とスワイプしながら見る体験は、多くの人にとって日常の一部になっています。

こうした短い動画は、気軽で、刺激的で、退屈しません。
一方で、「ちゃんと覚えていない」「見たはずなのに思い出せない」と感じることはないでしょうか。

この素朴な感覚に対して、中国の心理学研究チームは、行動実験と脳画像研究(fMRI)を組み合わせた検証を行いました。
その結果、短い動画による学習は、記憶の正確さだけでなく、「思い出すときの脳の働き方」そのものを変えてしまう可能性が示されました。


研究はどのように行われたのか

この研究を行ったのは、中国のユンナン師範大学 心理学部を中心とする研究チームです。
参加したのは、18〜30歳の大学生57名でした。

参加者は無作為に2つのグループに分けられました。

  • 長い動画グループ
    10分間の連続した1本の動画を見る

  • 短い動画グループ
    内容は同じだが、30秒〜数分の短い動画7本に分割されたものを見る

動画の長さ、情報量、テーマは揃えられており、違いは「連続しているか」「分断されているか」だけです。
動画視聴の直後、参加者は記憶テストを受け、その間の脳活動がfMRIで計測されました。


短い動画を見た人は、明らかに記憶成績が低かった

まず、行動面での結果です。

短い動画を見たグループは、長い動画を見たグループよりも、記憶テストの正答率が大きく低下していました。
この差は統計的にも非常に明確で、偶然とは考えにくいものでした。

重要なのは、
「集中していなかったから」
「動画がつまらなかったから」
といった単純な説明ではない、という点です。

同じ時間、同じ内容を見ていても、情報が分断されて提示されるだけで、記憶の質が変わってしまうことが示されたのです。


記憶を思い出すとき、脳のどこが変わっていたのか

研究チームは、記憶テスト中の脳活動を詳しく調べました。
その結果、短い動画グループでは、特に次の3つの部位の活動が低下していました。

クラウストラム

クラウストラムは、脳の奥深くにある非常に薄い構造で、
複数の脳領域の活動をまとめあげる「統合のハブ」のような役割を担っています。

短い動画を見た人では、このクラウストラムの活動が弱くなっていました。
これは、記憶を思い出すときに、バラバラの情報を一つの意味ある出来事として再構成する力が低下している可能性を示しています。

尾状核

尾状核は、注意の制御や目標に沿った思考、やる気の調整に関わる領域です。
短い動画グループでは、この尾状核の活動も低下していました。

研究者はこれを、
「何を思い出すべきかを主体的にコントロールする力が弱まっている状態」
として解釈しています。

中側頭回

中側頭回は、言葉や意味、文脈の理解に深く関わる領域です。
ここでも、短い動画グループは活動が低下していました。

これは、情報の意味的なつながりを深く処理できていない可能性を示しています。


脳の「連携」そのものも弱くなっていた

この研究では、脳の部位同士がどれだけ協調して働いているか、という点も分析されました。

その結果、短い動画グループでは、
尾状核とクラウストラムのあいだの連携が弱くなっていることがわかりました。

これは、
「制御する仕組み」と「統合する仕組み」がうまく噛み合わず、
記憶の再構成が非効率になっている状態と考えられます。


興味深い相関関係が示すもの

さらに研究者たちは、脳の活動と、参加者の日常的な短い動画の使い方との関係も調べました。

すると、短い動画をよく使い、自己コントロールが難しいと感じている人ほど、
記憶テスト中に、特定の脳回路を「無理に使っている」ようなパターンが見られました。

研究チームはこれを、
効率が落ちた脳が、何とか課題をこなそうとする「補償的な働き」
として解釈しています。

一見すると脳の結びつきが強く見えても、それは「うまく機能している」ことを意味しない場合がある、という示唆です。


研究者たちは何を結論づけているのか

この研究は、次の点を明確に示しています。

  • 短い動画による学習は、記憶の正確さを低下させる

  • その背景には、

    • 情報を統合する仕組みの弱体化

    • 注意と制御の配分の乱れ

    • 意味的な理解の浅さ
      がある

  • これらは、記憶を「思い出す瞬間」の脳活動として観測できる

研究者たちは、短い動画そのものを否定しているわけではありません。
しかし、断片的な情報に慣れすぎることが、深い記憶形成にコストをもたらすことを、神経レベルで示した点に、この研究の大きな意義があります。


私たちは、この結果をどう受け取ればいいのか

短い動画は、便利で、楽しく、生活を豊かにもします。
しかし同時に、
「理解する」
「つなげる」
「思い出す」
といった認知の営みには、別の条件が必要なのかもしれません。

連続した物語を追うこと。
一つの話題にとどまること。
途中で切れない時間を過ごすこと。

この研究は、そうした経験が、脳の中でどのような意味を持っているのかを、静かに示しています。

短い動画が悪いのではなく、
短い動画だけで世界を理解しようとすることに、理由のある限界がある。

そのことを、この研究は語っているように思えます。

(出典:npj science of learning DOI: 10.1038/s41539-025-00399-y

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