AIに頼りすぎてしまう学生は、何を失っているのか

この記事の読みどころ
  • 中国とマレーシアの大学生800人を対象に、AI依存を測る新しい尺度AIDep-22を提案した。
  • AI依存が高いと、学習を自分で進める力や理解の自信が低くなる。
  • 性別・学年・専攻・使用頻度などで依存の傾向が異なり、AIは便利だが依存の境界が曖昧になる点を指摘している。

大学生の「AI依存」を測る新しいものさし

生成AIが大学教育に急速に入り込む中で、学生の学び方は大きく変わりつつあります。
レポートの構成を考える、情報を整理する、難しい問いに答えのヒントをもらう。こうした場面で、AIは非常に便利な存在です。

一方で、「便利すぎること」そのものが、学びにどのような影響を与えているのかは、まだ十分に整理されていません。
この研究は、そうした問いに対して、「AIへの依存」という視点から、初めて体系的な測定手法を提示したものです。

この研究はどこで行われたのか

本研究は、中国とマレーシアの大学に所属する教育学・心理学・ビジネス分野の研究組織によって行われました。
対象は中国の大学生で、2つの独立した学生集団、合計800人を用いた大規模な調査が実施されています。

「AI依存」とは何か

研究者たちは、AI依存を単なる「使いすぎ」や「利用頻度」の問題としては捉えていません。
この研究で定義されているAI依存とは、次のような状態です。

学業においてAIへの過度な依存が続くことで、
・感情の安定
・課題の遂行
・考える力
・自分で使い方を制御する力
が、徐々にAIに委ねられてしまう状態

つまり、AIが「補助」ではなく、「前提」や「拠り所」になってしまうことが問題とされています。

AI依存は4つの側面から成り立っている

この研究の中心的な貢献は、AI依存を一つの性質としてまとめてしまわず、4つの異なる側面に分けて整理した点にあります。

感情的依存

AIがないと不安になる、落ち着かない、心細いと感じる状態です。
難しい課題に直面したとき、まず「AIが助けてくれれば安心できる」と感じる傾向がここに含まれます。
AIは評価しない存在であり、即座に答えてくれるため、学業に伴う不安や自己不信を和らげる「感情の避難所」になってしまうことがあります。

機能的依存

課題をこなすために、AIが不可欠になっている状態です。
レポート作成、情報収集、構成整理などをAIに任せることが当たり前になり、「AIがないと課題が進まない」と感じるようになります。
重要なのは、利用時間ではなく、「AIなしではできない」と感じているかどうかです。

認知的依存

考えることそのものをAIに委ねてしまう状態です。
自分で考える前にAIに答えを聞く、判断や結論をAIに任せる、そうした積み重ねによって、思考の主体が徐々に外部化されていきます。
研究者たちは、これを「認知的オフロード(考える負担を外に出すこと)」が行き過ぎた状態として捉えています。

コントロールの喪失

使いすぎないようにしようと思ってもやめられない、気づくとAIを使っている、という状態です。
これは「たくさん使うこと」とは異なり、自分で使用を調整できなくなっている点が特徴です。

AI依存を測る新しい尺度「AIDep-22」

研究者たちは、これら4つの側面を測定するために、22項目からなる質問紙を新たに開発しました。
これが「AI Dependence Scale(AIDep-22)」です。

質問はすべて学生自身が答える形式で、
「AIが使えないと不安になる」
「考える前にAIに答えを求めてしまう」
といった、日常的な学習体験に基づく内容になっています。

厳密な統計分析の結果、この尺度は
・信頼性が高い
・4つの側面がきちんと区別できている
・学業に対する自信の低下と関連している
ことが確認されました。

AI依存が高い学生ほど、学業の自己効力感が低い

この研究で特に注目される結果の一つが、AI依存と学業に対する自己効力感の関係です。
自己効力感とは、「自分は学業をやり遂げられる」という感覚のことです。

分析の結果、AI依存が高い学生ほど、
・自分で学習を調整できるという感覚
・授業内容を理解できるという感覚
が低いことが示されました。

単に成績の問題ではなく、「自分でできる」という感覚そのものが弱まっている点が重要です。

どのような学生がAI依存に陥りやすいのか

研究では、属性ごとの違いも詳しく分析されています。

性別

男性学生のほうが、感情的依存と認知的依存が高い傾向にありました。
これは技術への自信の高さとは別に、心理的な依存が強まっている可能性を示しています。

学年

学年が上がるほど、AI依存は高くなります。
特に、課題の複雑さが増す上級生ほど、機能的依存が顕著でした。

専攻分野

教育系や実践的な分野の学生で、AI依存が高い傾向が見られました。
実務的・課題解決型の学習環境では、AIが「便利な道具」から「欠かせない存在」になりやすいことが示唆されます。

使用頻度

AIの使用頻度が高いほど、全体的な依存度も高くなります。
ただし、感情的・認知的依存は「中〜やや高頻度」の段階でピークを迎える傾向があり、使い始めて依存が形成される初期段階が特に重要であることが示されています。

この研究が示していること

この研究は、AIを否定するものではありません。
研究者たちは一貫して、「AIは教育にとって有益な道具である」としたうえで、次の点を強調しています。

問題は、AIが
・学びを支える存在なのか
・学びを肩代わりする存在になっているのか
という境界が、知らないうちに曖昧になってしまうことです。

AI依存という概念は、新しい診断名を作るためのものではありません。
これまで「本人の努力不足」「怠け」として見過ごされがちだった学習上のつまずきを、より丁寧に理解するための視点だと言えます。

AIとどう付き合うかは、技術の問題ではなく、学びと主体性の問題です。
この研究は、そのことを静かに、しかし具体的なデータによって示しています。

(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1725393

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