「思い出せない」とわかるということ

この記事の読みどころ
  • 年齢とともに、単語の組み合わせを覚える連合記憶の成績が下がりやすいことが分かった。
  • ただし連合記憶では、高齢者でも自信と正解の一致が保たれやすいことがある。
  • 難しい記憶ほど自分の手応えがはっきりするため、過信しにくいという見方がある。

年を重ねても、自分の「記憶の確かさ」は意外とわかっている

──単語よりも、「組み合わせ」のほうが正確に手応えをつかめる理由

「最近、物覚えが悪くなった気がする」
多くの人が年齢とともに、そんな感覚を持つようになります。

けれど、記憶について大切なのは、単に「覚えられたかどうか」だけではありません。
もう一つ重要なのは、自分の記憶がどれくらい当たっているのかを、どれくらい正確に見積もれているかです。

たとえば、「これは自信がある」「これはちょっと怪しい」と感じる、その感覚が、実際の正解・不正解とどれくらい一致しているのか。
この力は、メタ認知と呼ばれています。
メタ認知とは、「自分の考えや記憶について、もう一段上から見積もる力」のことです。

この研究は、若い成人と高齢の成人を比べながら、
・記憶そのものの成績
・記憶に対する自信の正確さ
を同時に調べました。

そして、記憶の種類によって、年齢差の現れ方が違う可能性を、丁寧に検討しています。


単語の記憶と、「組み合わせ」の記憶

研究者たちは、記憶を二つのタイプに分けて考えました。

一つは、アイテム記憶です。
これは、「この単語を前に見たかどうか」を判断するような、ごく基本的な記憶です。

もう一つは、連合記憶です。
こちらは、「この二つの単語の組み合わせを見たかどうか」を判断する記憶です。
単語そのものだけでなく、「どれとどれが一緒だったか」という関係性を覚える必要があります。

一般に、年齢とともに特に低下しやすいとされているのが、この連合記憶です。
では、記憶が難しくなると、「自分の記憶への自信」も一緒にズレてしまうのでしょうか。

この点を、研究は詳しく調べました。


どんな人が、どんな課題を行ったのか

研究には、若い成人と高齢成人、あわせて49人が参加しました。
参加者はまず、英単語のペアを学習します。

その後、
・単語だけを見て「見た/見ていない」を判断するテスト
・単語のペアを見て「この組み合わせを見た/見ていない」を判断するテスト
を行いました。

重要なのは、すべての回答のあとで、自信の強さを評価した点です。
「どれくらい確信があるか」を数値で答えることで、
・実際の正誤
・主観的な自信
の対応関係を分析できるようにしました。


年齢による違いは、どこに現れたのか

まず、記憶そのものの成績を見ると、予想どおりの結果が出ました。

高齢の参加者は、
・単語の記憶よりも
・単語の組み合わせ(連合記憶)で
成績が下がりやすい傾向がありました。

一方で、注目すべきなのは、自信の正確さです。

研究者たちは、「どれくらい自信があるときに、実際に正解しているか」という対応関係を分析しました。

すると、意外なことがわかります。


「難しい記憶」でも、自分の手応えは意外と正確

結果として、高齢の参加者は、
・単語の記憶では、若い参加者と比べて、自信と正誤の対応がやや弱くなる傾向
が見られました。

ところが、
連合記憶(単語の組み合わせ)では、年齢によるメタ認知の低下がほとんど見られなかった
のです。

つまり、
「覚えるのは難しくなっているが、
 覚えられたかどうかの手応え自体は、きちんとつかめている
という状態が、高齢者では起きていました。

記憶が難しいからといって、必ずしも「自分の記憶を過信してしまう」わけではなかった、ということです。


なぜ「組み合わせ」のほうが正確になるのか

研究者たちは、この結果について慎重に解釈しています。

連合記憶は難しい分、
・「これは確かに覚えている」
・「これは怪しい」
という感覚が、よりはっきり生じやすい可能性があります。

つまり、記憶の成功と失敗のコントラストが強くなり、
その分、自信の調整がしやすくなっているのかもしれません。

この研究は、年齢とともに一様に「判断力」や「自己評価能力」が衰える、という単純な見方を否定しています。


記憶の問題は、「できない」だけでは語れない

この研究が示しているのは、
「高齢になると、記憶力も、その自己評価も、すべて一緒に悪くなる」
という話ではありません。

むしろ、
・何が難しくなっているのか
・その難しさを本人がどう感じ取っているのか
は、記憶の種類によって違う、ということが浮かび上がってきます。

日常生活でも、
「忘れやすくなったけれど、忘れたこと自体には気づけている」
という感覚を持つ人は少なくありません。

この研究は、そうした実感が、データとしても裏づけられる可能性を示しています。


結論を閉じすぎないために

年を重ねることは、単に能力が失われていく過程ではありません。
難しさが増す一方で、自分の状態を見極める力が、別の形で保たれている可能性もあります。

記憶の問題を考えるとき、
「できる/できない」だけでなく、
「自分は今、どれくらい確かだと感じているのか」
という視点を持つこと。

この研究は、その重要性を教えてくれています。

(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2021.630143

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