- 思春期の孤独は、友だちの多さではなく、望む関係と実際の関係のズレ(質)が大事だと説明されています。
- 共感は単独で孤独を減らすわけではなく、どんな目標につながるかと、それがどんな人間関係をつくるかの流れが重要です。
- 孤独を減らすには、信頼・助け合い・実際のつながりがそろった社会関係資本を高め、関係を深めたい・学びたいといった目標が鍵になります。
共感できるのに、なぜ孤独になるのか
思春期の孤独は、目に見えにくい問題です。
友だちがいるように見えても、どこか満たされない。学校には通っているけれど、心がつながっている感じがしない。そうした感覚を、うまく言葉にできないまま抱えている若者は少なくありません。
今回紹介する研究は、この「説明しにくい孤独」を、性格や努力の問題として扱うのではなく、共感・目標・人とのつながり方という三つの視点から整理し直そうとしています。
研究は、オーストラリアの大学の研究チームによって行われ、思春期の生徒を対象に、孤独と社会的な動機づけの関係を丁寧に分析しています。
孤独は「人がいないこと」ではない
この研究では、孤独を「友だちの数が少ないこと」とは定義していません。
孤独とは、自分が望んでいる関係と、実際の関係とのあいだに感じるズレだと考えられています。
たとえば、
-
話せる相手はいるけれど、本音は言えない
-
つながってはいるが、信頼している感じがしない
-
たくさんの人と関わっているのに、安心できない
こうした状態も、孤独に含まれます。
つまり、孤独は「量」ではなく、「質」に深く関係している感覚なのです。
研究が注目した三つの要素
この研究では、思春期の孤独を理解するために、次の三つの要素に注目しています。
共感(エンパシー)
ここでいう共感とは、単に「やさしい気持ち」のことではありません。
研究では、
-
相手の立場や気持ちを想像する力
-
他者の感情に心が動く感覚
この二つをまとめて、一つの「共感の力」として扱っています。
思春期では、この二つの側面が一緒に育つことが多いことが、先行研究からも示されています。
社会的な目標
人と関わるとき、私たちは無意識に「何を目指しているか」を持っています。
この研究では、社会的な目標を三つに分けています。
1つ目は、関係を深めたい、うまくなりたいという目標です。
友だちとの関係を大切にし、より良くなりたいと考える方向性です。
2つ目は、よく見られたい、評価されたいという目標です。
人気や注目を意識する目標で、必ずしも悪いものではありません。
3つ目は、失敗したくない、嫌われたくないという目標です。
からかわれたり、否定されたりすることを避けようとする姿勢です。
これらはどれか一つだけを持つものではなく、重なり合って存在します。
社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)
少し難しい言葉ですが、この研究での意味はとても具体的です。
社会関係資本とは、
-
信頼できる相手がいること
-
助け合いが成り立っていること
-
実際に人と関わる機会があること
この三つが組み合わさった状態を指しています。
単に会う回数が多いかどうかではなく、安心して関われる関係があるかが重要だとされています。
共感は、直接「孤独」を減らすわけではなかった
この研究で興味深いのは、共感が高いだけでは、孤独が直接少なくなるわけではなかったという点です。
共感の力そのものよりも重要だったのは、
-
その共感が、どんな目標につながっているか
-
その目標が、どんな人間関係をつくっているか
という「流れ」でした。
孤独を遠ざけていたのは「関係を育てたい」という目標
分析の結果、もっとも孤独と強く結びついていたのは、社会関係資本でした。
信頼、助け合い、参加がそろった関係をもっているほど、孤独は低い傾向にありました。
そして、その社会関係資本と強く結びついていたのが、関係を深めたい、学びたいという目標でした。
共感の力を持っている若者ほど、
-
人との関係を良くしたい
-
うまく関われるようになりたい
という目標を持ちやすく、
その目標が、信頼や助け合いのある関係につながっていたのです。
「嫌われたくない」目標は、別の方向に働くこともあった
一方で、否定を避けたい、失敗したくないという目標は、少し違う動きを見せました。
この目標が強い場合、
-
社会関係資本は低くなりやすく
-
孤独は高くなりやすい
という関連が見られました。
注目すべきなのは、共感の力が高い若者でも、この「避ける目標」を持つことがあった点です。
共感できるからこそ、他人の評価に敏感になり、傷つくことを避けようとする。
その結果、関係に踏み出しにくくなる可能性が示されています。
つながりの「量」よりも「質」が決定的だった
この研究では、人と会う頻度だけを切り離して分析することも行われました。
その結果、会う回数そのものは、孤独と強くは結びついていませんでした。
重要だったのは、
-
信頼できるか
-
相談できるか
-
お互いに支え合っている感覚があるか
という関係の質でした。
つまり、孤独は「忙しさ」や「交友関係の広さ」では解決しにくい問題だということが、データから静かに示されています。
この研究が示している、控えめだが重要な視点
この研究は、因果関係を断定してはいません。
あくまで、同時点で見られる「関係のかたち」を整理したものです。
それでも、次のような示唆が読み取れます。
-
共感は、それ自体が万能ではない
-
共感が、どんな目標と結びつくかが重要
-
目標の向きが、人間関係の質を左右する
-
孤独は、信頼と助け合いの欠如と深く結びついている
孤独を「気の持ちよう」や「本人の弱さ」に還元しない視点が、ここにはあります。
孤独を減らすとは、何を支えることなのか
この研究が投げかけている問いは、シンプルです。
孤独を減らすために、
「もっと社交的になろう」と言うことは、本当に助けになるのでしょうか。
それよりも、
-
安心して関われる関係
-
失敗しても大丈夫だと思える空気
-
関係を育てていけるという感覚
そうした土台をどう支えるかが、静かに問われています。
孤独は、見えないけれど、理由のある体験です。
その理由を、少しずつ言葉にしていく試みとして、この研究は位置づけられるのかもしれません。
(出典:Child & Youth Care Forum DOI: 10.1007/s10566-026-09923-6)

