- ネット依存とうつは、回復力と未来を描く力を介して結びつく可能性があると示された。
- 依存が強いとレジリエンスとホープが低くなり、それが抑うつを強める連鎖が見られた。
- 性別差として男性は抑うつが高く、女性はホープが高い傾向があるが、背景には社会的要因も関係しているかもしれない。
ネットの中にいるときだけ、少し楽になる
大学生活は、自由である一方で、不安や迷いが急に増えやすい時期でもあります。
授業や成績、人間関係、将来の進路。考えるべきことが重なり、気づくと頭の中が休まらなくなっていることもあります。
そんなとき、スマートフォンを開いてインターネットに入ると、少しだけ気持ちが軽くなる。
現実から距離を取れる。嫌なことを考えなくてすむ。
その感覚に、救われた経験を持つ人は少なくないでしょう。
しかし、その「一時的な逃げ場」が習慣になり、やめたいのにやめられなくなったとき、ココロの内側では何が起きているのでしょうか。
今回紹介する研究は、インターネットの使いすぎと抑うつ症状の関係を、「ココロを立て直す力」と「未来を見通す力」という心理的な資源に注目して整理しようとしたものです。
この研究を行った組織と背景
この研究は、中国本土およびマカオの大学に所属する研究者によって行われました。
大学生という発達段階にある若者は、心理的な揺らぎを経験しやすく、同時にインターネット利用が生活の中心になりやすい集団でもあります。
研究者たちは、インターネット依存と抑うつ症状の関係が、単純な「原因と結果」ではなく、個人が持つ心理的な資源を介して形づくられている可能性に着目しました。
調査の対象と方法
調査は、中国の複数の大学に在籍する学生を対象に行われました。
オンライン形式で質問票が配布され、最終的に800人以上の回答が分析に用いられています。
測定された主な要素は次の四つです。
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インターネット依存
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抑うつ症状
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心理的レジリエンス(困難から立て直す力)
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ホープ(未来に向けて道筋を描き、前に進めるという感覚)
この研究は、ある一時点の状態をとらえる横断研究であり、「どちらが原因か」を断定するものではありません。
その代わりに、これらの要素がどのような形で結びついているのかを、統計的に丁寧に検討しています。
インターネット依存とうつ症状の基本的な関係
分析の結果、インターネット依存が強い学生ほど、抑うつ症状が強い傾向が確認されました。
これは、「ネットをよく使う人は必ず落ち込む」という意味ではありませんが、両者のあいだに無視できない関連があることを示しています。
また、インターネット依存が強い学生ほど、心理的レジリエンスやホープが低い傾向も見られました。
ココロを支える二つの力
立て直す力としてのレジリエンス
心理的レジリエンスとは、ストレスや困難に直面したときに、完全に折れてしまうのではなく、時間をかけて立て直していく力のことです。
この研究では、レジリエンスが高い学生ほど、抑うつ症状が弱い傾向がはっきりと示されました。
未来を見通す力としてのホープ
ホープは、「なんとかなる」という楽観とは少し違います。
目標に向かう道筋を思い描き、そのために自分が動けるという感覚を含んだ、より構造的な心理状態です。
ホープが低い学生ほど、抑うつ症状が強いという関係も、非常に明確に示されました。
見えてきたのは「連鎖」の構造
この研究で最も重要なのは、インターネット依存とうつ症状のあいだに、心理的資源が「順番に影響し合う構造」が見られた点です。
分析の結果、次のような流れが統計的に支持されました。
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インターネット依存が強まる
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心理的レジリエンスが低下する
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ホープが低下する
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抑うつ症状が強まる
つまり、まず「立て直す力」が削られ、その結果として「未来を見通す力」も弱まり、気分の落ち込みが深くなる、という連鎖です。
興味深いことに、ホープだけが単独で媒介する経路は確認されませんでした。
ホープは、レジリエンスという土台があってこそ機能しやすい可能性が示唆されています。
性別による違いについて
分析では、男性の方が抑うつ症状が高く、女性の方がホープが高い傾向が見られました。
一方で、インターネット依存やレジリエンスには大きな性差は確認されていません。
研究者は、感情表現や支援の受けやすさ、大学生活における役割期待など、社会的・文化的背景が影響している可能性を指摘しています。
この研究が静かに示していること
この研究は、「ネットをやめればうつは治る」といった単純な結論を導いていません。
むしろ、インターネット依存と抑うつ症状のあいだには、ココロの内側にある回復力や希望が深く関わっていることを示しています。
ネットに逃げている状態は、単なる怠けや意志の弱さではなく、すでに「立て直す力」が弱っているサインなのかもしれません。
そして、未来を思い描けなくなったとき、人はさらに現実から距離を取ろうとします。
研究の限界と残された問い
この研究は横断研究であり、因果関係を断定することはできません。
また、インターネットの利用内容や目的の違いまでは細かく分析されていません。
それでも、「ネット依存 → うつ」という単線的な見方では捉えきれない、心理的なプロセスの重なりを描き出した点に、この研究の意義があります。
私たちがネットとの関係を考えるとき、問われているのは使用時間だけではありません。
その背後で、ココロがどれだけ立て直す力を保てているのか。
未来を、どれだけ現実的に思い描けているのか。
その問いは、静かに、しかし確かに、私たち自身に返ってきています。
(出典:scientific reports DOI: 10.1038/s41598-025-34157-2)

