- 誤解を生みやすいグラフは、最初の見た目の印象が強く影響することがある。
- 訂正グラフを見せると、差の感じ方が平均的に小さくなり、デザインは問わない。
- 訂正には学習効果があるが限度があり、訂正を見せること自体が理解を助けると示されている。
誤解を生むグラフは、どうすれば「見抜ける」ようになるのか
―― 職業教育を受けた若者を対象にした実証研究から
この研究は、オランダのユトレヒト応用科学大学、ライデン大学、アムステルダム大学医療センター(Amsterdam UMC)などの研究者によって行われました。
テーマは、ニュースやSNSで日常的に目にする誤解を招くグラフを、人はどのように読み、そして訂正を見せることで理解はどの程度変わるのか、という問いです。
とくにこの研究が焦点を当てたのは、これまで研究であまり扱われてこなかった職業教育を受けている若者でした。
研究者たちは、この層が情報に弱い存在だと決めつけたのではありません。
むしろ、「視覚的な情報が氾濫する社会で、どのような支援があれば誤解を減らせるのか」を、実証的に確かめようとしています。
グラフは「一瞬」で結論を作ってしまう
グラフは、本来、数値の関係を直感的に理解するための道具です。
しかしその強みは、裏を返せば弱点にもなります。
この研究が前提としているのは、人がグラフを見るとき、まず一瞬の印象で「差が大きい」「小さい」と判断してしまう、という点です。
縦軸が途中から始まっている棒グラフ、実際より大きく見えるイラスト、立体的に描かれた円グラフ。
こうした表現は、数値そのものが同じでも、差を過剰に大きく感じさせることがあります。
重要なのは、その最初の印象が、あとから数字を読み直しても、なかなか修正されないという点です。
研究者たちは、これを「最初のイメージの粘着性」として捉えています。
この研究で行われたこと
研究は、二つの方法を組み合わせて行われました。
一つは、少人数のインタビュー調査です。
職業教育を受けている学生が、グラフを見ながら「何を考えているか」を声に出して説明します。
もう一つは、130人を対象としたオンライン調査です。
参加者は、正しいグラフ、誤解を招くグラフ、そしてその訂正版のグラフを見て、「どのくらい差があると感じるか」を評価しました。
訂正版のグラフには、二つのデザインが用意されました。
ひとつは、元の派手なデザインを保ったまま正しく直したもの。
もうひとつは、色や装飾を減らしたシンプルなデザインです。
若者たちは、どうやってグラフを読んでいたのか
インタビュー調査から見えてきたのは、従来の理論とは少し異なる読み方でした。
多くの参加者は、
まずタイトルを読み、
次に数値を確認し、
そのあとで「大きいか小さいか」を判断していました。
つまり、「まず見た目で判断し、そのあと数字を読む」というよりも、
計算と見た目の確認を行き来しながら判断していたのです。
この点は、研究者たちにとっても意外な結果でした。
また、評価には内容への個人的な印象が強く影響していました。
「自分の経験と合うか」「信じられるか」「問題として深刻か」。
そうした感情や価値判断が、数値の差の評価にも混ざっていたのです。
訂正されたグラフは、本当に効果があったのか
オンライン調査の結果は、はっきりしていました。
誤解を招くグラフを見たあとに、正しいグラフを提示すると、差の評価は平均して大きく下がりました。
参加者は、「思ったより差は大きくない」と感じ直したのです。
この効果は、棒グラフだけでなく、イラストを使ったグラフや円グラフでも確認されました。
しかも、もともとそれほど誤解を生んでいなかった円グラフでも、訂正を見ることで評価は下がりました。
重要なのは、どんなデザインの訂正でも効果があったという点です。
派手なデザインを保った訂正でも、シンプルな訂正でも、効果に有意な差はありませんでした。
「学習効果」はあったのか
研究者たちは、もう一つの点も調べています。
それは、訂正を見たあと、新しい誤解グラフにも強くなるのかという問いです。
結果として、わずかな学習効果は確認されました。
訂正を経験したあとでは、新しい誤解グラフによる誤解は、少しだけ弱まりました。
ただし、その効果は限定的でした。
誤解は完全には消えず、影響は依然として残っていました。
つまり、訂正は役に立つが、「一度見れば完全に免疫がつく」わけではない、ということです。
デザインよりも大切だったこと
この研究の結論は、シンプルです。
訂正のデザインを工夫することよりも、訂正そのものを見せることが重要でした。
人によって、派手なデザインを好む人もいれば、シンプルな方が理解しやすい人もいます。
しかし、どちらであっても、「誤解を正すグラフ」が提示されること自体が、理解を助けていました。
研究者たちは、職業教育を受けた若者が、誤解に弱い存在だとは結論づけていません。
むしろ、適切な訂正に触れることで、きちんと気づき、学ぶ力を持っていることが示されました。
見せ方を変えるだけで、理解は変わる
この研究が伝えているのは、
「もっと注意深く読め」「リテラシーを高めろ」という話ではありません。
誤解を生みやすい構造があるなら、
それを正す情報を、視覚的に並べて示すこと。
それだけで、人の理解は確かに変わります。
グラフは、強力な道具です。
だからこそ、その力をどう使うか、そしてどう訂正するかが問われている。
この研究は、その現実的なヒントを示しています。
(出典:PLOS One DOI: 10.1371/journal.pone.0340100)

