- 実験では、タブー語を15秒くり返すと、細かい手作業の速さや正確さが向上することが分かった。
- 中立語では同じ効果が見られず、衝動性の高まりだけでは説明できないとされた。
- この効果はごく短時間の心理的ウォームアップのようで、なぜ起きるのかはまだはっきりしていない。
うまくいかない瞬間に、思わず出る言葉
細かい作業に集中しているとき、思いどおりに手が動かず、思わず強い言葉が口をつくことがあります。
多くの場合、それは「よくない癖」や「感情的な反応」として捉えられがちです。
しかし今回紹介する研究は、そのような言葉が、一時的に手先の動きを良くする可能性を示しました。
対象となったのは、社会的に不適切とされやすい「タブー語」です。
この研究は、「タブー語を口にすることが、心理的なウォームアップとして働き、手の器用さを高めるのではないか」という問いを、実験的に検証しています。
タブー語は、単なる感情の発散ではない
研究者たちは、タブー語を「感情が荒れたときの副産物」としてではなく、
心理状態を変化させる行動として捉えました。
これまでの研究から、タブー語の使用には次のような特徴があることが知られています。
・集中状態に入りやすくなる
・自信が高まる
・抑制が一時的にゆるむ
・気分が改善する
また、痛みへの耐性が高まったり、短時間の強い運動のパフォーマンスが向上したりすることも報告されてきました。
こうした特徴は、アスリートが行う「心理的ウォームアップ」と重なります。
そこで研究者たちは、細かく正確な手の動きが求められる課題においても、同様の効果が現れるのかを調べました。
実験はとてもシンプルです
この研究では、二つの実験が行われました。
どちらも共通しているのは、作業の直前に参加者が15秒間、ある言葉をくり返し口にするという点です。
一方の条件では、参加者自身が選んだタブー語を。
もう一方では、感情的な意味を持たない中立的な言葉を使いました。
その後、参加者は手先の器用さを測定する課題に取り組みます。
実験1:手作業のスピードはどう変わったか
最初の実験では、物を持ち替えたり、配置したりする作業を通して、手の動きの速さと正確さを測定しました。
結果は明確でした。
タブー語をくり返した直後のほうが、作業を速く終えることができたのです。
研究者たちは同時に、「衝動性が高まったのではないか」という可能性も検討しました。
しかし、抑制の強さを測る別の課題では、タブー語と中立語のあいだに違いは見られませんでした。
つまり、単に衝動的になったから速くなった、という説明は成り立たなかったのです。
実験2:別の課題でも同じ結果が出た
二つ目の実験では、指先を使って小さな穴に棒を差し込む課題が用いられました。
より日常的で、細かな指の動きが求められる作業です。
ここでも結果は一致しました。
タブー語をくり返した直後のほうが、作業時間が短縮されたのです。
さらに研究者たちは、「普段からよくタブー語を使う人では効果が弱まるのではないか」という点も調べました。
しかし、日常的な使用頻度による違いは見られませんでした。
なぜ、タブー語で指先が動きやすくなるのか
この研究では、効果の存在は確認されましたが、正確な仕組みはまだ特定されていません。
ただし、研究者たちはいくつかの可能性を挙げています。
タブー語を発するとき、私たちの体は軽い緊張状態に入ります。
心拍や呼吸が変化し、注意が一点に向きやすくなります。
この「ほどよく高まった覚醒状態」が、
手先の作業に必要な集中やタイミングの調整を助けているのかもしれません。
重要なのは、これは長時間続く変化ではなく、ごく短時間の効果だという点です。
まさに「ウォームアップ」という表現がふさわしい現象といえます。
社会的に「よくない言葉」を、どう考えるか
もちろん、この研究は「タブー語を推奨する」ものではありません。
場面や相手によっては、使うべきでない言葉であることは変わりません。
ただし、この研究が示しているのは、
言葉には意味だけでなく、身体や注意の状態を変える力があるという事実です。
私たちが無意識に使ってきた行動の中には、
実は合理的な理由が隠れていることがあります。
行動の裏側にある、見えにくい働き
この研究は、日常のささいな行動を「良い・悪い」で切り分けるのではなく、
それがどんな働きを持っているのかを丁寧に見直す視点を与えてくれます。
感情、言葉、身体の動きは、切り離されているようでいて、密接につながっています。
その関係を理解することは、人の行動をより深く知ることにつながります。
「なぜ、あの瞬間にあの言葉が出たのか」。
その問いには、まだ解き明かされていない理由が、確かに存在しているのかもしれません。
(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1676618)

