年を重ねても、知りたい気持ちは衰えない。記憶を支えているのは驚きではなく好奇心だった

この記事の読みどころ
  • 好奇心にはその場で生まれる状態と性格としての傾向という二つの種類がある。
  • 答えをどれくらい知りたいかが高いと、年齢に関係なく記憶に残りやすい。
  • 教育経験は好奇心を育てる環境となり、日常的な好奇心を高めて記憶を支える力になる。

驚きよりも好奇心が、記憶を支えている

年齢を越えて続く「知りたい気持ち」の力

私たちは日常の中で、「気になったこと」はよく覚えているのに、「どうでもよかったこと」はすぐ忘れてしまいます。
この感覚は、多くの人にとって身に覚えがあるでしょう。

では、その「覚えやすさ」を生んでいる正体は何なのでしょうか。
驚きでしょうか。
それとも、純粋な好奇心でしょうか。

ドイツのリューベック大学を中心とする研究グループは、この問いを正面から扱いました。
若い成人から高齢者までを対象に、「好奇心」「驚き」「年齢」「教育」という要素が、長期記憶にどう関わるのかを、複数の実験で丁寧に検証しています。


一時的な好奇心と、性格としての好奇心

この研究の重要な前提は、「好奇心には二つの種類がある」という考え方です。

ひとつは、その場その場で生じる状態としての好奇心です。
クイズを見て「答えが知りたい」と感じるような、一時的で状況依存の好奇心です。

もうひとつは、性格的な傾向としての特性としての好奇心です。
普段から新しい知識を楽しむタイプかどうか、という比較的安定した個人差を指します。

研究者たちは、この二つを明確に分けたうえで、それぞれが記憶や学習にどう関わるのかを調べました。


好奇心が高いと、年齢に関係なくよく覚えている

最初の二つの実験では、若年成人と高齢者にクイズ形式の課題が与えられました。

参加者はまず、「この問題の答えをどれくらい知りたいか」を評価します。
その後、答えを提示され、翌日にどれだけ内容を覚えているかが調べられました。

結果は非常に一貫していました。

答えを強く知りたいと感じていた問題ほど、年齢に関係なく、よく覚えていたのです。

高齢者は全体的な記憶成績こそ若年者より低いものの、「好奇心が高いか低いか」という差の影響は、若い人と同じように見られました。
つまり、年を重ねても、「知りたい」という状態そのものが記憶を強く支えていることが示されたのです。


驚きは、いつでも味方になるわけではない

次に研究者たちは、「驚き」に注目しました。

答えを見たときに「意外だった」「予想外だった」と感じることは、記憶を強めるのでしょうか。

若年成人では、ここに複雑な結果が現れました。

好奇心が低い状態では、驚きが強いほど記憶は良くなる傾向がありました。
しかし、好奇心がすでに高い状態では、驚きが強すぎると、かえって記憶が弱まることが示されたのです。

つまり、若い人では「好奇心」と「驚き」の組み合わせによって、記憶への効果が逆転する場面がありました。

一方で、高齢者ではこのような複雑な相互作用はほとんど見られませんでした。
高齢者の場合、記憶を支えていたのは一貫して「好奇心」であり、驚きの影響は限定的でした。


驚きは、好奇心の「通路」として働く

研究者たちはさらに、「驚きはどのように働いているのか」を詳しく分析しました。

若年成人を対象にした解析では、次の構造が示されました。

  • 好奇心が高いほど、驚きも感じやすくなる

  • その驚きが、結果として記憶を強める方向に間接的に働く

重要なのは、驚きそのものが直接記憶を良くしているわけではない、という点です。
驚きは、好奇心が記憶に届くまでの途中経路として機能している可能性が示されました。


教育は、好奇心を育てる「環境」でもある

三つ目の実験では、視点が少し変わります。

ここでは、特性としての好奇心、状態としての好奇心、そして教育歴の関係が調べられました。

分析の結果、次の流れが見えてきました。

  • 知的好奇心の高い性格傾向は、

  • より高い教育経験と関連しており、

  • その教育経験を通じて、日常的な好奇心の高さにつながっている

つまり、好奇心は生まれつきの性格だけで決まるものではなく、
どのような学びの環境に身を置いてきたかによって、日常的に引き出されやすくなることが示唆されました。


年を重ねると、何が変わり、何が変わらないのか

この研究全体から浮かび上がるのは、意外にも前向きなメッセージです。

年齢とともに脳や記憶能力が変化することはよく知られています。
それでも、「知りたい」と感じる状態そのものは、成人期を通して記憶を支え続けていました。

一方で、「驚き」のような強い刺激は、若い時期には効果的でも、年齢とともに影響が穏やかになっていく可能性が示されました。

これは、「刺激を与えれば覚えられる」という単純な話ではないことを意味しています。


覚え続ける力は、意欲の中にある

この研究は、「記憶力は衰えるものだ」という見方を、静かに問い直します。

覚えられるかどうかを分けているのは、能力だけではありません。
その瞬間に、「本当に知りたいと思っているかどうか」が、年齢を越えて重要だったのです。

驚きは一時的な火花のようなものかもしれません。
しかし、好奇心は、長く燃え続ける火種です。

学び続けること、問いを持ち続けること。
その姿勢自体が、私たちの記憶と理解を、静かに支えているのかもしれません。

(出典:scientific reports DOI: 10.1038/s41598-025-14479-x

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