レジリエンスは「強い性格」ではなかった

この記事の読みどころ
  • レジリエンスは「4つのプロセス」の組み合わせで成り立ち、1つの強さではない。
  • その4つのプロセスは場面や領域ごとに違う可能性がある。
  • コロナ禍の分析では、4つのプロファイルに分かれ、均一な強さではないことが示された。

はじめに

私たちはよく、「あの人はレジリエンスが高い」「あの人は打たれ弱い」と言います。
まるでレジリエンスが「性格の強さ」のように扱われることがあります。

しかし、本当にレジリエンスは「持っているか、いないか」の問題なのでしょうか。

イギリスのバンガー大学(Bangor University)心理学・スポーツ科学スクールの研究チームは、レジリエンスを「ひとつの能力」ではなく、「いくつかの異なるプロセスの組み合わせ」として捉える新しいモデルを提案しました。

この研究は2026年に学術誌 PLOS One に掲載され、レジリエンスを測定する新しい尺度(Resilience Process Scales: RPS)を開発し、さらにコロナ禍という現実の逆境の中で、人々がどのように反応したかを検証しています

この研究が示しているのは、レジリエンスとは「強い人の特性」ではなく、「4つの異なる働きのバランス」だということです。


レジリエンスの4つのプロセス

研究チームは、レジリエンスを次の4段階のプロセスとして整理しました。

1. 予測(Anticipate)

これから起こりそうな困難を察知する力です。
「この状況はストレスになりそうだ」と早めに気づく能力です。

2. 最小化(Minimize)

困難の影響を小さくする準備をする力です。
バックアッププランを立てたり、事前に備えたりする行動がここに含まれます。

この2つは「予防的(プロアクティブ)」な側面です。

3. 対処(Manage)

実際に困難が起きたときに冷静さを保ち、うまく対応する力です。

4. 修復(Mend)

困難のあとに立ち直る力です。
気持ちを回復させ、同じことに振り回されないように学ぶ力も含まれます。

この2つは「反応的(リアクティブ)」な側面です。

重要なのは、この4つは必ずしも一緒に高くなるわけではないという点です。

ある人は「予測」は高いけれど「修復」は低いかもしれません。
また別の人は「対処」は得意でも「予測」は苦手かもしれません。

レジリエンスとは、ひとつのスコアではなく、4つのプロセスの組み合わせなのです。


レジリエンスは「場面ごと」に違う

さらに研究チームは、レジリエンスは次の5つの領域ごとに異なる可能性があると考えました。

  • 一般的な困難

  • 身体的な困難

  • 感情的な困難

  • 社会的な困難

  • 認知的な困難(集中力や思考への負荷)

たとえば、身体的な痛みには強いが、対人ストレスには弱い人もいます。
また、仕事の認知的負荷には耐えられても、感情的な衝撃には弱い人もいます。

この視点はとても重要です。

「私はレジリエンスが低い」と感じている人も、実はある領域では非常に高いレジリエンスを持っている可能性があるからです。


尺度の開発と検証

研究チームは、まず20項目からなる質問項目を作成しました。その後、統計的検証を重ね、最終的に各領域13項目に整理しました

分析にはベイズ構造方程式モデリング(BSEM)が用いられ、各プロセスが理論どおり分かれることが確認されました

信頼性も十分であり、予測・最小化・対処・修復それぞれが独立した構成要素として測定可能であることが示されました。

これは、「レジリエンス=単一の強さ」という従来の見方に対する重要な修正です。


コロナ禍で見えた4つのレジリエンス・プロファイル

研究の第3段階では、コロナ禍という大きな逆境の中で、どのようなレジリエンスのパターンがあるかが分析されました。

その結果、4つのプロファイルが見つかりました。

プロファイル1:低レジリエンス・高予測型

予測は高いが、他が低い。
このタイプは不安や抑うつが高く、衝動性も高い傾向がありました。

つまり、「心配はするが、対処と回復が弱い」タイプです。

プロファイル2:低レジリエンス・高予防型

予測と最小化は高いが、対処と修復が低い。
予防行動はとるものの、精神的な回復力が弱い傾向がありました。

プロファイル3:中程度・高対処型

対処と修復がやや高い。
抑うつや不安は低めで、より適応的な傾向を示しました。

プロファイル4:高レジリエンス型

4つすべてが高い。
不安・抑うつ・衝動性が低く、ウェルビーイングが高い結果でした。

興味深いのは、「予測が高いだけ」ではレジリエンスは高くならないという点です。

むしろ、予測が高く対処や修復が低い場合、不安が高まりやすいことが示されました。

これは「心配性だが立ち直れない」状態に近いと考えられます。


レジリエンスは「均一な強さ」ではない

この研究が示している核心はここです。

レジリエンスは「強いか弱いか」ではありません。

  • 予測ばかり強いと、不安が高まることがある。

  • 予防だけ高いと、慎重だが回復力が弱い可能性がある。

  • 対処と修復が高いと、心理的安定につながりやすい。

つまり、レジリエンスはバランスなのです。


何が見えてくるのか

この研究は、レジリエンスを「性格の強さ」から「プロセスの組み合わせ」へと再定義しました。

それは同時に、「どこを伸ばせばよいか」が見えるということでもあります。

もし自分が「予測は高いが修復が低い」タイプなら、
必要なのは「もっと心配すること」ではなく、
「立ち直りのスキルを育てること」かもしれません。

レジリエンスは固定されたものではなく、
どのプロセスをどう伸ばすかという問題に変わるのです。


おわりに

私たちはよく、「あの人はメンタルが強い」と言います。

しかし、この研究が示しているのは、
強さとは単一の特性ではなく、
いくつかの働きがどう組み合わさっているかという構造だということです。

レジリエンスとは、
困難を予測し、影響を小さくし、対処し、そして回復する。
その流れ全体のかたちです。

もしあなたが「自分は弱い」と感じているなら、
それは全体が低いのではなく、
ある部分のバランスが崩れているだけかもしれません。

レジリエンスは「才能」ではなく、
「プロセスの設計図」なのかもしれないのです。

(出典:PLOS One DOI: 10.1371/journal.pone.0341581

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