性的ファンタジーと性格特性、その意外に細かな関係

この記事の読みどころ
  • 日常の空想の一つとして性的ファンタジーがあり、開放性が高い人ほど頻度が高い傾向があることを示した。
  • ビッグファイブの下位特性まで分けて、どの性格のどの側面がどの空想と関係するかを詳しく調べた。
  • 性的ファンタジーを異常か正常の判断材料にせず、心の使い方の一つとして理解する姿勢をとっている。

ふだん語られない心の活動に目を向ける

人は日常の中で、さまざまな空想をしています。
仕事の合間に浮かぶ将来の計画、過去の出来事のやり直し、誰かとの会話の続きを頭の中で再生することもあるでしょう。そうした空想の一部として、「性的ファンタジー」も存在しています。

しかし、性的ファンタジーは他の空想とは少し違った扱われ方をしてきました。
多くの人にとって身近で自然な心の働きであるにもかかわらず、どこか「個人的すぎるもの」「口にすべきでないもの」とされ、研究の対象としても慎重に避けられてきた側面があります。

これまでの研究では、性的ファンタジーは問題行動や逸脱、あるいはリスク行動と結びつけて語られることが少なくありませんでした。
そのため、「どんな人が、どれくらい空想するのか」という、ごく素朴な問い自体が十分に検討されてこなかったのです。

この研究は、そうした空白に静かに光を当てています。

この研究が立てた問い

研究者たちが注目したのは、性的ファンタジーを「異常なもの」として扱うことではありません。
むしろ、性的ファンタジーを人の内的な想像活動の一つとして捉え、その個人差がどこから生まれるのかを明らかにしようとしています。

中心となる問いは、次のように整理できます。

人によって、性的ファンタジーの頻度が大きく異なるのはなぜなのか。
それは、性欲の強さや道徳観の違いだけで説明できるのか。
それとも、もっと基本的な「性格の構造」と関係しているのか。

この問いに答えるために、研究者たちは性格心理学で広く用いられている枠組みを採用しました。

ビッグファイブという性格の地図

この研究で使われたのは、「ビッグファイブ」と呼ばれる性格モデルです。
これは、人の性格を五つの大きな特性で捉える考え方で、心理学研究では非常に一般的に用いられています。

五つの特性は、
外向性、協調性、誠実性、神経症傾向、開放性
です。

ただし、この論文の重要な点は、「ビッグファイブで分類しました」という話で終わらないところにあります。
研究者たちは、この五つの特性をさらに細かく分解し、性格のどの部分が性的ファンタジーと関係しているのかを丁寧に追っています。

性格は一枚岩ではない

たとえば「協調性が高い人」と聞くと、やさしい、人当たりが良い、といったイメージを思い浮かべるかもしれません。
しかし、協調性という特性の中には、思いやり、対立回避、信頼感、従順さなど、異なる側面が含まれています。

同じように、「外向性が高い」と言っても、社交性なのか、活動量なのか、刺激を求める傾向なのかで意味は変わります。

この研究では、こうした「下位特性(ファセット)」に注目することで、
「性格が関係している」という曖昧な説明にとどまらず、
どの性格の、どの側面が、どのタイプの空想と関係しているのか
を明らかにしようとしています。

性的ファンタジーは一つの現象ではない

研究者たちは、性的ファンタジーを単一のものとして扱っていません。
内容の傾向によって、いくつかの領域に分け、それぞれの頻度を測定しています。

たとえば、
日常とは異なる状況や役割を想像するもの、
感情的なつながりや親密さを重視するもの、
主導権や力関係に関わるもの、
新奇性や刺激を重視するもの、
といった具合です。

この分類は、「性的ファンタジーが多いか少ないか」だけを見るのではなく、
どんな方向に想像が向かいやすいのか
という質的な違いを捉えるための工夫です。

開放性と想像力の関係

分析の結果、もっとも一貫した関連が見られたのが「開放性」という特性でした。
開放性は、新しい経験、想像、価値観の多様性にどれだけ開かれているかを示す特性です。

開放性が高い人ほど、性的ファンタジーの頻度が高い傾向が示されました。
しかも、この関連は特定のファンタジー領域に限られたものではなく、比較的広い範囲で確認されています。

この結果は、重要な示唆を含んでいます。
性的ファンタジーは、特別な欲望や衝動というよりも、
想像力をどれだけ自由に使うかという、心の使い方の延長線上にある
可能性を示しているからです。

性的ファンタジーは「性」だけの問題ではない

この研究が示す視点は、性的ファンタジーを性行動や性道徳の問題に閉じ込めません。
むしろ、それを想像活動の一形態として捉えています。

日常的に空想を楽しむ人が、音楽や芸術、物語に惹かれやすいように、
性的な空想もまた、心がどこに向かいやすいかを反映している可能性があります。

誠実性と自己抑制の役割

一方で、「誠実性」が高い人では、一部の性的ファンタジーの頻度が低くなる傾向も見られました。
誠実性は、計画性、責任感、自己管理といった側面を含む特性です。

ただし、ここで注意が必要です。
この結果は、「誠実な人は性的空想をしない」という意味ではありません。

むしろ、
空想を自由に広げる心の動きと、
自己抑制や計画性を重視する心のスタイルが、
必ずしも同じ方向を向いていない可能性を示しています。

協調性と外向性の複雑な関係

協調性や外向性については、単純な関連は見られませんでした。
全体の得点では関係がなくても、特定の下位特性だけが、特定のファンタジーと結びついています。

この点は、この研究の方法論的な重要性を示しています。
性格を大づかみに扱うと、実際には存在している関係を見落としてしまう可能性があるのです。

神経症傾向と感情の処理

神経症傾向についても、一部のファンタジーと限定的な関連が見られました。
これは、不安や感情の揺れやすさが、想像の使い方に影響を与える可能性を示しています。

ただし、研究者たちはここでも過度な解釈を避けています。
不安があるから空想する、という単純な因果関係を主張しているわけではありません。

性的ファンタジーをどう理解するか

この研究全体を通して、繰り返し伝えられているのは、
性的ファンタジーを「正常か異常か」で分類する必要はない、という姿勢です。

空想の多さや少なさは、
善悪や健全さの指標ではありません。
それは、心がどの方向に開かれているかを示す、一つの特徴にすぎません。

心の多様性をそのまま見る

人の心は、誰一人として同じ形をしていません。
空想が豊かな人もいれば、現実志向の人もいます。
どちらが優れているという話ではありません。

この論文は、性的ファンタジーという扱いづらいテーマを通して、
人の内面の多様性を評価せず、そのまま理解しようとする姿勢
を示しています。

結論を急がないために

この研究は、性的ファンタジーの意味を一つに決めていません。
治療の対象だとも、解放すべきものだとも断定していません。

ただ、
人はなぜ違った形で空想するのか。
その違いは、性格という基本構造とどのようにつながっているのか。

その問いを、静かに整理しているだけです。

空想のあり方は、人の生き方の一部です。
この研究は、その事実を、過度な評価や裁きを加えることなく、淡々と示しています。

(出典:PLOS One DOI: 10.1371/journal.pone.0329745

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