「スピリチュアル知能」とは何か

この記事の読みどころ
  • スピリチュアル知能は宗教心の有無とは関係なく、人生の意味や価値を見いだして日常に生かす力と説明される。
  • 6つの中核要素は平静さ、人生の知恵、超越的な気づき、スピリチュアルな意識、意味と目的をつくる力、実存的な問いを持つ力である。
  • 内省を促すプログラムや意味づけのワーク、マインドフルネスなどの訓練で高まり、医療現場では共感や倫理判断にも良い影響があるとされる。

この研究は、**ポルト大学医学部(ポルトガル)**を中心とする研究チームが、緩和ケアチームや地域医療・健康意思決定科学部門と連携して実施したものです。
研究者たちは、世界中で発表された112本の関連研究をもとに、「スピリチュアル知能(Spiritual Intelligence)」という概念を体系的に整理し、その本質を明らかにしようとしました。

私たちはふだん、「知能」と聞くと、計算の速さや記憶力、論理的思考力を思い浮かべがちです。
近年では、感情を理解し調整する力としての「感情知能」も広く知られるようになりました。

しかし人間の営みをよく見ると、それだけでは説明しきれない側面があります。

なぜ生きるのか。
この出来事にはどんな意味があるのか。
苦しみの中で、どうやって折り合いをつけるのか。

こうした問いに向き合う力を、研究者たちはスピリチュアル知能と呼びます。


スピリチュアル知能は宗教心の強さではない

研究では、スピリチュアル知能は宗教的信仰の有無や強さとは区別されます。

  • スピリチュアリティ:人生の意味や価値、内面の在り方に関する感覚

  • 宗教:教義や儀式、組織を伴う信仰体系

  • 感情知能:感情を認識し調整する能力

  • スピリチュアル知能:
    人生経験や存在に関する問いから意味や価値を見いだし、それを日常生活に生かす能力

つまりスピリチュアル知能とは、
「どう生きるかを考え、選び続けるための知性」
と位置づけられています。


研究で整理された6つの中核要素

分析の結果、スピリチュアル知能は次の6つの要素から構成されると示されました。

① 平静さ(エクアニミティ)

困難な状況にあっても、内面のバランスを保つ力です。

  • 強い感情に飲み込まれにくい

  • 落ち着いて状況を見つめられる

  • 慌てず、極端に悲観しない

感情を抑え込むのではなく、感情と共存しながら安定を保つ力と説明されています。


② 人生の知恵(ライフ・ウィズダム)

経験を通して育つ、実践的な知恵です。

  • 問題を長い目で考える

  • 倫理や思いやりを含めて判断する

  • 困難を成長の材料として捉える

心理的成熟と価値観の深まりが結びついた能力とされています。


③ 超越的な気づき

自分中心の視点を超えた広い視野です。

  • 自分が大きな流れの一部であると感じる

  • 物事を俯瞰的に見る

  • つながりを意識する

世界を「分断」ではなく「関係性」として見る感覚に近いものです。


④ スピリチュアルな意識

人生経験を深く内省し、意味づけする力です。

  • なぜこの出来事が起きたのか考える

  • そこから何を学べるかを探る

出来事を単なる事実で終わらせず、内面の成長へ変換する力とされています。


⑤ 意味と目的をつくり出す力

人生を意味のある物語として捉える力です。

  • 苦しみの中にも意味を探す

  • 自分なりの人生の方向性を持つ

精神的健康と特に強く関連していました。


⑥ 実存的な問いを持つ力

「なぜ生きるのか」「私は何者か」といった問いを避けずに考える姿勢です。

  • 答えが出なくても考え続ける

  • 不確実性を受け入れる

スピリチュアル知能は、答えを持つ力ではなく、問いと共に生きる力でもあります。


スピリチュアル知能は育てることができる

論文では、スピリチュアル知能は訓練可能な能力だとされています。

実際に、

  • 内省を促すプログラム

  • 意味づけを考えるワーク

  • マインドフルネス的実践

などによって、スピリチュアル知能が向上したという研究結果が報告されています。


高いスピリチュアル知能と関連していたもの

多数の研究で、スピリチュアル知能は次のような結果と関連していました。

  • 精神的健康の向上

  • ストレス・バーンアウトの低下

  • レジリエンス(回復力)の向上

  • 対人関係の質の向上

  • 仕事・学業パフォーマンスの向上

スピリチュアル知能は、抽象的な概念でありながら、日常生活の機能性と結びついていることが示されています。


医療・ケアの現場での意味

研究チームは、医療やケアの文脈での意義を特に重視しています。

スピリチュアル知能が高いケア提供者は、

  • 患者の価値観を尊重しやすい

  • 共感的関係を築きやすい

  • 倫理的判断を行いやすい

といった傾向が見られました。

家族介護者においても、
受容、意味づけ、持続力といった点で良い関連が示されています。


研究が提示する定義

論文ではスピリチュアル知能を次のように定義しています。

人生経験や実存的な問いから意味・目的・価値を能動的に見いだし、それを問題解決や日常の行動に生かす、独立した訓練可能な知能

スピリチュアル知能とは、
考え方ではなく、生き方に表れる知性だといえます。


おわりに

この研究は、人間を

「情報を処理する存在」から
「意味をつくりながら生きる存在」

として捉え直す視点を提示しています。

答えを持つことよりも、
問いと共に生きる力。

それこそが、スピリチュアル知能の中核にあるものなのかもしれません。

(出典:Journal of Intelligence

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