「無意識でした」という説明が、行動を止めるとき

この記事の読みどころ
  • 同じ災害でも、なぜそうなったのかの説明を「明示的な偏見」と「無意識の偏り(インプリシット・バイアス)」で比べた。
  • 暗黙の偏りの説明を読んだ人は、怒りや罪悪感、ジャーナリストへの怒りが弱くなり、寄付意欲や寄付サイトの閲覧行動が減った。
  • この研究は、説明の仕方が感情と行動を変える可能性があることを示し、善意の説明でも責任の所在や行動を左右しうると示唆している。

「無意識の偏り」という説明は、なぜ行動を弱めてしまうのか

差別や不公正な出来事が起きたとき、その原因として「悪意」や「意図」が語られることもあれば、「本人も気づいていない無意識の偏り(インプリシット・バイアス)」が持ち出されることもあります。
後者は、加害者を一方的に断罪しない、穏健で理性的な説明のように聞こえるかもしれません。

しかし、本研究は、その説明の仕方そのものが、人々の感情や行動に予想外の影響を及ぼす可能性を示しています。

研究の背景──偏った報道と支援の差

この研究を行ったのは、イェール大学心理学部を中心とする研究グループです。
研究者たちは、自然災害に関する報道が、被災者への支援行動、とくに寄付行動に強く影響することに注目しました。

過去の調査では、イスラム教徒が多数を占める中東地域の災害は、欧米の災害と比べて報道量が少なく、否定的な文脈で描かれやすいことが指摘されています。その結果、寄付額にも差が生じている可能性があります。

本研究は、こうした「偏った報道」がなぜ起きたのか、その説明のされ方が、人々の反応をどう変えるのかを検証しました。

実験の設定──同じ被害、異なる説明

アメリカ在住の参加者350人は、
「中東のイスラム教徒の自然災害被災者は、欧州の被災者よりも寄付を受けにくい」
という内容の記事を読みました。

重要なのは、その理由の説明です。

  • 明示的バイアス条件
    ジャーナリストが、意識的にイスラム教徒に否定的な信念や偏見を持っていると説明される。

  • 暗黙的バイアス条件
    ジャーナリスト自身も気づいていない、無意識の連想や自動的反応が原因だと説明される。

被害の内容や結果は同じでも、「なぜそうなったのか」という説明だけが異なっていました。

感情はどう変わったのか

結果は一貫していました。

偏った報道が暗黙的バイアスによるものだと説明された場合、参加者は、

  • 怒りや道徳的憤り

  • 罪悪感

  • ジャーナリストへの怒り

を、明示的バイアスの場合よりも弱く感じていました。

一方で、被災者への共感は、統計的に明確な差があるとは言い切れない結果でした。強い被害状況そのものが、どの条件でも高い共感を引き起こしていた可能性が示唆されています。

行動への影響──寄付は減った

より重要なのは、行動への影響です。

暗黙的バイアスによる説明を読んだ参加者は、

  • 将来の中東地域の災害への寄付意欲が低く

  • 実際に寄付情報を求めたり、寄付サイトをクリックする割合も低くなっていました

つまり、「無意識だから仕方ない」という理解は、被害を埋め合わせようとする行動まで弱めてしまったのです。

なぜそうなるのか──感情が媒介する

追加分析から、寄付意欲の低下は、

  • 怒り

  • 憤り

  • 罪悪感

といった感情が弱まったことによって説明できることが示されました。

暗黙的バイアスは「意図していない」「コントロールが難しい」と理解されやすく、その結果、
「強く責めるほどではない」
「自分も同じかもしれない」
という感覚が生まれ、感情のエネルギーが下がっていく可能性があります。

研究が投げかける問い

この研究は、「暗黙的バイアス」という概念そのものを否定しているわけではありません。
むしろ、問題にしているのは説明の効果です。

善意で使われることの多いこの説明が、

  • 責任の所在を曖昧にし

  • 感情を鎮め

  • 行動を止めてしまう

としたら、私たちはどう語るべきなのでしょうか。

結論を閉じずに

偏見や差別を理解しようとするとき、「悪意のある人」と「無意識の人」という二分法だけでは、十分ではないのかもしれません。

誰もが無意識の偏りを持ちうるという前提に立ちながら、
それでも生じた結果にどう向き合い、誰が、どのように修復するのか。

本研究は、その問いを静かに突きつけています。
説明の仕方ひとつで、私たちの感情と行動が変わってしまうという事実は、メディア、教育、政策の現場にとっても、重い示唆を含んでいるように思われます。

(出典:communications psychology DOI: 10.1038/s44271-026-00405-y

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