語学学習の成績は、努力より「感情」で決まる?

この記事の読みどころ
  • 感情知能が高いほど英語の成績が高くなる傾向がある。
  • 感情知能は「話そう」という気持ちを強くし、対話への意欲を支える。
  • 退屈さは成績を強く下げる要因で、話そうとする気持ちが退屈さを減らすのに関係している。

感情の扱い方は、語学の成績をどう変えるのか

話したくなる気持ちと、退屈さのあいだで起きていること

外国語を学んでいると、「内容は嫌いではないのに、なぜか集中できない」「話したほうがいいと分かっていても、口を開く気になれない」と感じることがあります。
この研究は、そうした感覚の背後にある感情の扱い方に注目し、それが語学の成績とどのようにつながっているのかを、大規模な調査によって検討したものです。

研究は、中国の複数の大学とアメリカの大学に所属する研究者グループによって行われました。対象となったのは、中国の大学に通う英語非専攻の学生1,158人です。感情の特性、英語で話そうとする気持ち、授業中の退屈さ、そして実際の英語成績との関係が詳しく調べられました。


この研究が注目した三つの要素

この研究では、三つの心理的な要素が中心に据えられています。

一つ目は**感情知能(エモーショナル・インテリジェンス)**です。
これは、感情が豊かであることを意味するのではありません。自分や他人の感情に気づき、それを理解し、状況に応じて調整しながら行動に生かす力を指します。研究では、自分の感情を把握する力、他人の感情を読み取る力、感情を行動に活用する力、感情をコントロールする力といった側面が測定されました。

二つ目は英語で話そうとする気持ちです。
これは、英語を使う機会が与えられたときに、自分から進んで話そうとする準備ができているかどうかを示します。文法が完璧かどうかよりも、「今、話してみよう」と思えるかどうかに焦点が当てられています。

三つ目は外国語学習における退屈さです。
これは、授業中に感じるつまらなさや集中の途切れ、やる気の低下といった、学習を止めてしまう感情を指します。難しすぎる課題だけでなく、簡単すぎたり、意味を感じられなかったりする課題でも生じるとされています。


研究の考え方の背景

この研究は、学習中の感情がどのように生まれるのかを説明する心理学の理論を土台にしています。
その考え方では、人が学習中に感じる感情は、

・自分がどれくらいコントロールできていると感じているか
・その活動にどれくらい価値や意味を感じているか

という二つの評価から生まれるとされます。

研究者たちは、感情知能を、こうした評価の土台となる比較的安定した個人の特性として位置づけました。そして、
感情知能 → 話そうとする気持ち → 退屈さ → 成績
という流れが成り立つのかどうかを検討しました。


どのような調査が行われたのか

調査は、中国の7つの大学で行われました。対象者はすべて英語非専攻の学部生で、これまでに8年から10年程度の英語学習経験をもっています。

学生たちは、感情知能に関する質問、英語で話そうとする気持ちに関する質問、英語授業中の退屈さに関する質問に回答しました。また、大学の正式な英語成績も提出しています。

これらのデータを用いて、複数の心理的要因がどのようにつながり、成績に影響しているのかが統計的に分析されました。


分かったこと① 感情知能は、成績と直接つながっている

分析の結果、感情知能が高い学生ほど、英語の成績が高いことが確認されました。
この関係は、話そうとする気持ちや退屈さを考慮に入れても残っていました。

研究者たちは、感情知能の高い学生は、自分の状態を整えやすく、学習の意味や価値を見失いにくいため、安定した学習行動を取りやすいのではないかと考えています。


分かったこと② 感情知能は「話してみよう」という気持ちを強くする

次に明らかになったのは、感情知能が高いほど、英語で話そうとする気持ちが強いという点です。
自分の緊張や不安に気づき、それを調整できる学生ほど、発言の機会を避けにくくなります。また、相手の反応を読み取れることで、対話への心理的な負担も小さくなります。

感情知能は、「話す勇気」を直接与えるというよりも、話す場面で生じる感情を扱いやすくすることで、結果的に話す意欲を支えていると考えられます。


分かったこと③ 話そうとする気持ちは、退屈さを減らす

興味深いのは、退屈さを直接減らしていたのは感情知能ではなく、話そうとする気持ちだったという点です。
感情知能が高くても、授業への関わりが少なければ、退屈さは必ずしも減りません。一方で、英語でやりとりしようとする姿勢がある学生ほど、授業を意味のある活動として感じやすく、退屈しにくくなっていました。

「参加すること」そのものが、退屈さを和らげる役割を果たしていたといえます。


分かったこと④ 退屈さは、成績を強く下げる

もう一つ重要なのは、退屈さが成績に与える影響の大きさです。
退屈さは、感情知能や話す意欲とは独立して、成績を下げる強い要因となっていました。

集中力の低下や努力の減少が、直接的に学習成果を損なっていると考えられます。この影響は、他の要因を考慮してもなお残っていました。


つながりとして見えてきた流れ

この研究で支持された流れは、次のようなものです。

感情知能が高い
→ 英語で話そうとする気持ちが高まる
→ 授業中の退屈さが減る
→ 英語の成績が高くなる

この連鎖は決して劇的なものではありませんが、統計的には確かに確認されました。
感情知能がすべてを直接変えるのではなく、「関わろうとする姿勢」を通して学習体験そのものを変えていく点が、この研究の特徴です。


この研究が示していること

この論文は、「もっと話させればいい」「退屈しない授業にすればいい」といった単純な答えを示しているわけではありません。
むしろ、学習者がどのように自分の感情を扱い、どのように学習に意味を見出しているのか、その過程全体に目を向ける必要があることを示しています。

英語学習は、できる・できない以前に、「関われるかどうか」という問題を含んでいます。
この研究は、そのことを静かに、しかし具体的なデータとともに示しています。

(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1702948

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