- モーションセンサーとタイムラプスの二つのカメラ方式を並べて、繁殖期のガンを観察しました。
- 1日あたりの写る鳥の数は同じでも、存在を見つけやすいのはタイムラプスの方で、両方式で見える時間帯が異なることが多かったです。
- 観察の精度を上げるには、二つの方式を重ねて使うのが効果的だという結論に近づく結果でした。
見張っているのに、見えていない
──カメラの「反応のしかた」が、自然の姿を変えてしまうとき
私たちはしばしば、「見張っていれば、見えるはずだ」と考えます。
動くものに反応するカメラは、自然の中でもっとも効率的な観測者であるように思えるからです。
しかし、この研究が静かに示しているのは、「反応すること」と「記録できること」は、必ずしも同じではない、という事実です。
フィンランド東部大学とフィンランド天然資源研究所による研究チームは、フィンランド各地の泥炭地に生息するタイガハイイロガンの繁殖期を対象に、野生動物用カメラの二つの撮影方式を比較しました。
一つは、動きを感知すると撮影するモーションセンサー方式。
もう一つは、一定時間ごとに撮影するタイムラプス方式です。
この研究は、どちらの方式が「より多くの鳥を写すか」ではなく、「どちらが、存在を見落としにくいか」という問いに焦点を当てています。
「写っていない」は、「いなかった」ことになるのか
タイガハイイロガンは、繁殖期になると非常に見つけにくくなります。
巣は分散しており、人の気配を強く避け、広い行動範囲を持っています。
人が直接観察しようとすると、その存在自体を変えてしまう可能性があるため、遠隔カメラによる観測は、ほぼ唯一の現実的な方法です。
しかし、ここで問題になります。
カメラに写らなかったとき、それは「そこにいなかった」のでしょうか。
それとも、「いたが、反応されなかった」だけなのでしょうか。
研究チームは、2020年と2021年の二つの繁殖期にわたり、同じ場所にモーションセンサー方式とタイムラプス方式のカメラを上下に並べて設置しました。
つまり、まったく同じ景色を、異なる「反応のしかた」で見続けたのです。
数は同じでも、「見え方」は違っていた
分析の結果、意外なことが分かりました。
一日に写ったガンの数そのものは、両方式の間で有意な差はありませんでした。
ところが、「その日に一度でもガンが写ったかどうか」という存在検出率に注目すると、違いが現れました。
15分ごとに撮影するタイムラプス方式のほうが、モーションセンサー方式よりも、わずかですが高い確率でガンの存在を捉えていたのです。
さらに詳しく比較すると、タイムラプスで写っていたのに、モーションセンサーでは写らなかった時間帯が多く存在しました。
逆に、モーションセンサーで写っていたのに、タイムラプスで見逃していたケースもありましたが、その割合は小さくなっていました。
つまり、どちらも万能ではないが、反応を待たないカメラのほうが、存在の痕跡を拾いやすいという結果が示されたのです。
動きに反応することの、意外な弱点
モーションセンサー方式は、「動き」を条件にしています。
しかし、遠くにいる個体、ゆっくり移動する個体、カメラの感知範囲の端を通る個体は、反応を引き起こさないことがあります。
一方、タイムラプス方式は、そこに何かがいようといまいと、淡々と記録を続けます。
そのため、遠景に小さく写った個体や、一瞬だけ姿を現したガンも、後から確認することが可能になります。
研究者たちは、この違いが、繁殖期のように行動が控えめになる動物の観測において、重要な意味を持つと指摘しています。
観測の効率と、自然への配慮
この研究は、単に「どちらがよく写るか」を比較したものではありません。
もう一つの重要な観点は、人が現地を訪れる回数です。
モーションセンサー方式では、誤作動による空の画像が大量に生成されることがあり、バッテリーやメモリーカードの交換頻度が増えがちです。
一方、15分間隔のタイムラプスは、画像数が予測しやすく、訪問回数を減らせる可能性があります。
繁殖期の鳥にとって、人の訪問そのものがストレスになることを考えると、
「少し見落としにくく、少し静かに見守れる方法」が、結果としてより適切な観測になる場合があることが示唆されます。
どちらか一方ではなく、「重ねて見る」こと
研究チームは、最終的にこう結論づけています。
二つの方式を並行して使うことで、最も高い検出率が得られる。
反応する視線と、反応しない視線。
その両方を重ねることで、初めて浮かび上がる存在がある。
この研究は、野生動物調査という文脈を超えて、私たちに問いを投げかけているようにも見えます。
「私たちは、何に反応し、何を見落としているのか」
「見えなかったものを、いなかったことにしていないか」
カメラの設定という小さな違いが、世界の見え方そのものを変えてしまう。
その静かな事実を、この研究は淡々と示しています。
(出典:PLOS One DOI: 10.1371/journal.pone.0340055)

