- オンライン学習では、教材が断片的で次に何を学ぶかの道筋が見えにくい点が問題になる。
- 知識の関係を線でつなぐ「知識構造の可視化」と、学習の道筋を示す仕組みを組み合わせると効果があった。
- 実験では成績向上だけでなく、知識のつながりが整い、学習姿勢や深い考え方も進化した。
オンライン学習の「わかったつもり」は、なぜ起きるのか
私たちはオンラインで学ぶことに、ずいぶん慣れてきました。時間や場所に縛られず、動画や教材に自由にアクセスできる環境は、学びを大きく広げてくれます。一方で、「学んだはずなのに、知識が頭の中でバラバラのまま残っている」「理解した気がするのに、うまく説明できない」と感じた経験も、多くの人がもっているのではないでしょうか。
この論文は、そうしたオンライン学習特有の違和感が、学習者の能力や努力の問題ではなく、「学びの構造そのもの」に原因があるのではないか、という問いから始まっています。
この研究は、どんな問題意識から始まったのか
研究を行ったのは、中国の首都師範大学教育学院を中心とする研究チームです。研究者たちは、オンライン学習において多くの学習者が直面している二つの困難に注目しました。
一つは、学習内容が断片化しやすいことです。教材、動画、課題、テストが個別に提示されることで、「何と何がどうつながっているのか」が見えにくくなります。もう一つは、学習の道筋が見えにくいことです。次に何を学べばよいのかが分からず、常に手探りで進むことになります。
研究者たちは、こうした状況が重なることで、学習者が深く理解する前に疲れてしまい、「わかったつもり」のまま学習が進んでしまうのではないかと考えました。
「支援(スキャフォルディング)」は、どこまで役に立ってきたのか
教育研究の分野では、学習者を支える方法として「スキャフォルディング(足場かけ)」という考え方があります。これは、学習者が自力では難しい課題に取り組めるよう、適切な手助けを与えるという発想です。
これまでのオンライン学習でも、ヒント表示や手順ガイドなど、さまざまな支援が使われてきました。ただし研究者たちは、従来の支援の多くが「個々の課題を解くための補助」にとどまり、「知識全体の構造」や「学習活動同士のつながり」を十分に支えていなかった点に問題を見出しています。
知識を「見える形」にすると、何が変わるのか
そこで研究チームが提案したのが、「知識構造の可視化」と「学習活動の道筋」を組み合わせた支援の仕組みでした。
まず導入されたのが、知識ネットワークの可視化です。学習内容を点として覚えるのではなく、知識同士の関係を線で結び、全体像として示します。どの知識が基礎になり、どの知識と関連しているのかが視覚的に分かるようになります。
さらに、自分がどの知識を理解できていて、どこがまだ不十分なのかも、色や線の違いで示されます。学習者は、自分の現在地を客観的に把握できるようになります。
学習内容と活動が「一本の道」になるとき
もう一つの柱が、学習活動の道筋を明確にする仕組みです。従来のオンライン学習では、教材と課題が並列に配置されることが多く、学習者はそれらの関係を自分で考える必要がありました。
この研究では、「この知識を学んだら、次にこの活動を行う」という流れを意図的につなぎました。しかも、その道筋は一律ではなく、他の学習者との理解の近さや、過去の学習状況に応じて柔軟に調整されます。
学習者は迷うことなく、「今の自分に合った次の一歩」を提示されながら学びを進めることができます。
実際の授業で、何が起きたのか
研究チームは、この仕組みの効果を確かめるため、中国北部の中学校で実験を行いました。AIをテーマとした授業を受ける60人の生徒が参加し、半数は新しい支援システムを使用し、残りの半数は通常のオンライン学習環境で学びました。
授業期間は4週間で、知識テスト、コンセプトマップ作成、学習態度アンケート、自由記述の回答など、複数の方法で学習の変化が測定されました。
知識の量だけでなく、「組み立て方」が変わった
結果として、新しい支援を使った生徒たちは、テストの点数が高かっただけでなく、知識の整理の仕方にも明確な違いが見られました。コンセプトマップでは、知識同士のつながりが多く、構造的に整理されていたのです。
これは、単に覚えた情報が増えたというより、「知識をどう結びつけて理解しているか」が変化したことを示しています。
学ぶ姿勢や気持ちにも、変化は表れた
学習態度の面でも変化が見られました。新しい支援を使った生徒たちは、学習への積極性、内容の重要性の理解、興味や好奇心のいずれにおいても、より前向きな反応を示しました。
研究者たちは、学習の全体像と次の行動が見えることで、不安や迷いが減り、学びそのものに集中しやすくなった可能性を指摘しています。
「考えの深さ」は、どこで分かれたのか
自由記述の回答を分析すると、思考の深さにも差が現れました。新しい支援を使った生徒の多くは、知識同士を結びつけ、自分なりの考えとしてまとめる段階に達していました。一方、通常の学習環境の生徒は、個別の事実を並べる段階にとどまる傾向が強く見られました。
研究者たちは、この違いの背景に、「知識が構造として見えているかどうか」があると考えています。
学びを支えるのは、「量」より「構造」かもしれない
この研究が静かに示しているのは、学習を深める鍵が、教材の量や難しさだけではないということです。知識がどのようにつながり、どんな順序で経験されるのか。その構造が見えるだけで、学びの質は大きく変わりうるのです。
オンライン学習が当たり前になった今だからこそ、「何を教えるか」だけでなく、「どうつながって見せるか」を問い直す必要があるのかもしれません。
(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1725612)

