- 愛着不安が高い人は、出来事をより大きくつらく感じやすい。
- 愛着回避が高い人は、出来事の影響を小さく見積もりやすい。
- 同じ出来事でも、見る人の見方次第で変化の感じ方が違うことがわかった。
人生の出来事は、人を変えるのか
それとも、もともとの「感じ方」が世界を形づくっているのか
人生には、誰にとっても避けられない出来事があります。
結婚、就職、引っ越しといった節目。
病気、失業、死別のような、強い衝撃を伴う経験。
こうした出来事に直面したとき、多くの人は「これで自分は変わってしまうかもしれない」と感じます。
けれど、その変化の大きさは、本当に出来事そのものによって決まっているのでしょうか。
今回紹介する研究は、同じ出来事でも、人によって「見え方」そのものが大きく異なること、そしてその違いが「愛着スタイル」と深く結びついている可能性を示しています。
愛着スタイルという、目に見えないレンズ
この研究が注目したのは、愛着スタイルと呼ばれる心理的な傾向です。
愛着スタイルとは、人が他者とどのような距離感で関係を築こうとするか、その基本的なパターンを指します。
研究では、愛着スタイルを次の二つの軸で捉えています。
一つは、愛着不安。
これは、「見捨てられるのではないか」「相手の気持ちは本当に自分に向いているのか」といった不安を感じやすい傾向です。
もう一つは、愛着回避。
これは、他者に頼ったり、感情的に近づいたりすることに抵抗を感じやすい傾向です。
多くの人はこの二つが低い、比較的安定した愛着を持っていますが、不安や回避の傾向が強い人もいます。
研究者たちは、この違いが「人生の出来事の受け止め方」に影響しているのではないかと考えました。
出来事そのものではなく、「どう見えるか」を調べる
この研究には、アメリカの大学生およそ2,000人が参加しました。
研究を行ったのは、ミシガン州立大学 心理学部の研究チームです。
参加者はまず、自分の愛着不安と愛着回避の傾向を測定する質問に答えました。
その後、次のような人生の出来事について評価を行いました。
・結婚、離婚
・就職、失業
・親しい人の死
・重い病気やケガ
・犯罪被害
・引っ越しや留学
・親になること
重要なのは、これらが実際に経験した出来事ではなく、「もし起きたらどう感じるか」という仮想の出来事として評価された点です。
参加者はそれぞれの出来事について、
・人の性格を変えそうか
・どれくらい大変そうか
・どれくらい感情的に強いか
・人生観が変わりそうか
・社会的評価に影響しそうか
といった複数の側面から判断しました。
人はそもそも、人生の出来事で変わると思っている
まず明らかになったのは、多くの人が
「人生の出来事は、人を多少なりとも変える可能性がある」
と考えているという事実です。
とくに、「恋人の死」「親の死」「親になること」は、人格に大きな影響を与える出来事だと捉えられていました。
一方で、「新しい友人を作る」「友人と距離ができる」といった出来事は、比較的変化の小さいものとして見なされていました。
それでも、完全に影響がないと考えられている出来事は、ほとんどありませんでした。
愛着不安が高い人は、出来事を「重く」受け取る
愛着不安が高い人には、はっきりとした傾向が見られました。
この傾向を持つ人は、人生の出来事を
・より大変そう
・より感情的に強い
・人生観を揺さぶる
・社会的評価を下げる可能性がある
・予測しにくい
ものとして捉えやすかったのです。
失業、引っ越し、犯罪被害、自然災害といった出来事についても、
「これは自分を大きく変えてしまうかもしれない」
と感じやすい傾向がありました。
研究者たちは、こうした見方が、見捨てられ不安や警戒心の強さと結びついている可能性を指摘しています。
世界が「不安定で、脅威に満ちた場所」として見えやすいのです。
愛着回避が高い人は、出来事の影響を小さく見積もる
一方で、愛着回避が高い人は、ほぼ逆の傾向を示しました。
この傾向を持つ人は、人生の出来事について
・あまり大変ではない
・感情的な影響は小さい
・人生観は変わらない
・性格が変わるほどではない
と評価しやすかったのです。
病気、災害、死別といった深刻な出来事であっても、その影響を比較的控えめに捉える傾向が見られました。
研究者たちは、これは「距離を取ることで自分を守る」心理的な戦略と整合的だと考えています。
出来事を重く受け取らないことで、感情的な負担を避けている可能性があるのです。
同じ出来事でも、世界は違って見える
この研究が示しているのは、
人生の出来事が人を変えるかどうかは、出来事そのものよりも、その人の受け止め方に左右される
という可能性です。
愛着不安が高い人は、出来事を「人生を揺るがす転機」として見やすい。
愛着回避が高い人は、出来事を「自分にはそれほど関係のないもの」として処理しやすい。
その結果、同じ出来事を経験しても、心に残る痕跡は大きく異なるかもしれません。
変わらない理由も、ここにあるのかもしれない
過去の研究では、人生の大きな出来事であっても、愛着スタイルそのものはあまり変わらないことが示されてきました。
今回の研究は、その理由を考える手がかりを与えています。
出来事が起きても、
・不安の強い人は「やはり世界は危険だ」と感じ
・回避の強い人は「やはり自分は影響を受けない」と感じる
そのように、もともとの見方が強化されてしまう可能性があるのです。
人生の出来事は、人を変えるきっかけになることもあります。
しかし同時に、その人がすでに持っている「世界の見方」を、静かに固定してしまうこともあるのかもしれません。
出来事を見る目を、問い直すということ
この研究は、人生の出来事そのものよりも、
「私たちはそれをどう見ているのか」
という問いの重要性を浮かび上がらせています。
変わるか、変わらないか。
成長か、停滞か。
その分かれ道は、出来事の外ではなく、私たちの内側にあるのかもしれません。
(出典:PLOS One DOI: 10.17605/OSF.IO/EBG86);)

