幸せな職場は、全員を幸せにするのか?

この記事の読みどころ
  • 幸せそうな同僚は、同僚からも高く評価されやすい「幸福のハロー効果」がある。
  • 評価は評価する人の幸福感や人生の意味づけが間接的に影響し、好意・信頼が仕事の評価を押し上げる。
  • 幸福を重視する人ほど幸せな同僚を評価しやすいが、幸福と実際の幸福は必ずしも同じではない。

幸せな人は、仕事ができる人に見えるのか

職場には、いつも明るく、前向きで、楽しそうに働いている人がいます。
その姿を見て、私たちは無意識のうちに「きっと仕事もできるのだろう」「周囲とうまくやっている人だ」と感じてしまうことがあります。

けれど、その評価はどこまで実態を反映しているのでしょうか。
そして、その見方は、見る側の心の状態によって変わるのでしょうか。

今回紹介する研究は、「幸福そうな同僚」に向けられる評価が、どのように形づくられているのかを、同僚同士の視点から丁寧に検討しています。

ハロー効果という、よくある心のクセ

心理学には「ハロー効果(halo effect)」と呼ばれる現象があります。
これは、ある一つの目立つ特徴が、その人全体の評価を引きずってしまう心のクセです。

たとえば、第一印象が良い人を「仕事もできそう」「誠実そう」と感じてしまう。
逆に、どこか気に入らない点があると、ほかの側面まで否定的に見えてしまう。

この研究が注目するのは、その中でも**「幸福のハロー効果」**です。
つまり、「幸せそうに見える人は、全体的に高く評価されやすい」という現象です。

これまでの研究と、今回の問い

これまで、幸福と仕事の評価を扱った研究の多くは、上司や管理職が部下をどう評価するかに焦点を当ててきました。
幸せそうな部下は、能力が高く、好ましい存在として評価されやすいことが知られています。

しかし、職場で日常的に接するのは、上司だけではありません。
同僚同士の関係は、仕事の満足感や職場の雰囲気に大きな影響を与えます。

この研究が問い直したのは、
「幸せそうな同僚は、同じ立場の同僚から、どのように見られているのか」
という点です。

研究の方法

研究者たちは、アメリカで働く863人の労働者を対象に、オンライン調査を行いました。
参加者は、日常的に同僚と関わる仕事に就いている人たちです。

調査では、次のような点が測定されました。

  • 幸せそうな同僚の仕事ぶりについての評価

  • その同僚に対する感情的な態度(好意、信頼、嫉妬、不快感など)

  • 回答者自身の幸福感や人生の意味づけ

  • 幸福をどれほど重要な価値として考えているか

仕事の評価は、「仕事量」「キャリアへの姿勢」「創造性」「チームへの貢献」「組織全体への関与」といった複数の側面から尋ねられました。

幸せな同僚は、ほぼすべての面で高く評価されていた

まず明らかになったのは、とても一貫した傾向です。

多くの参加者は、
「幸せな同僚ほど、仕事ができる」
「チームワークに貢献している」
「組織にとって価値がある」
と評価していました。

この傾向は、ほぼすべての仕事の側面で確認されました。
つまり、幸福は、仕事内容そのものと直接関係のない領域にまで、好意的な評価を広げていたのです。

研究者たちは、これを典型的な「幸福のハロー効果」と捉えています。

しかし、見る側の幸福感が重要だった

ところが、話はそれほど単純ではありませんでした。

「幸せな同僚をどう評価するか」は、
評価する側自身の幸福感と深く関係していたのです。

単純に「自分が幸せな人ほど、幸せな同僚を高く評価する」という直接的な関係は、統計的にははっきり確認されませんでした。

代わりに見えてきたのは、間接的な経路です。

感情と信頼が、評価を媒介していた

研究では、次のような流れが明らかになりました。

  • 自分自身の幸福感や人生の意味づけが高い人ほど

  • 幸せな同僚に対して、好意的な感情や信頼を抱きやすく

  • その感情や信頼が、同僚の仕事評価を押し上げていた

つまり、
「幸せ → 同僚への好意・信頼 → 高い仕事評価」
という流れです。

逆に言えば、
幸せな同僚そのものが評価されているというより、
その同僚に向けられる感情の色合いが、評価を左右していたとも言えます。

幸せは、見る人にとって心地よいとは限らない

研究者たちは、ここで一つの重要な可能性を示唆しています。

幸せな人を見ることは、必ずしも、誰にとっても心地よい体験ではないかもしれない、という点です。

幸福は、しばしば「比較」の対象になります。
自分があまり満たされていないとき、他人の幸福は、無意識のうちに劣等感や居心地の悪さを呼び起こすことがあります。

その結果、
幸せな同僚に対して、距離を取りたくなったり、
評価を控えめにしたりする可能性も考えられます。

この研究では、そうした否定的反応が強く前面に出るケースは多くありませんでした。
しかし、「幸福のハロー効果は、常に万人に等しく働くわけではない」という点は、はっきり示されています。

幸福を重視する人ほど、幸せな同僚を評価しやすい

もう一つ興味深い点は、「幸福をどれほど大切な価値と考えているか」という要因です。

幸福を人生の重要な目標と考えている人ほど、
幸せな同僚を高く評価する傾向がありました。

これは、幸福を肯定的に捉える価値観そのものが、評価の基準に影響している可能性を示しています。

ただし、「幸福を重視すること」と「自分が実際に幸せであること」が組み合わさったときに、評価がさらに強まる、という予測は支持されませんでした。

職場の「幸せ」は、単純な善ではない

この研究が伝えているのは、
「幸せな職場をつくれば、すべてうまくいく」という単純な物語ではありません。

幸せな人は、たしかに周囲から好意的に見られやすい。
しかし、その評価は、見る側の感情や状態に左右される。

幸せが、人を励ますこともあれば、
静かな比較や違和感を生むこともある。

職場の幸福は、一方向に作用するものではなく、
人と人との関係の中で、微妙に揺れ動くものなのかもしれません。

幸せは、誰のためのものか

研究者たちは、最後にこうした示唆を残しています。

職場で幸福を推進することは重要ですが、
すべての人が同じ形の「幸せ」を望んでいるわけではありません。

ある人にとっての明るさが、
別の人にとっては重荷になることもある。

幸福を掲げるときこそ、
そこからこぼれ落ちる感情や、語られにくい違和感にも目を向ける必要がある。

この研究は、
「幸せは良いものだ」という前提を疑うのではなく、
「幸せは、どのように他者に映るのか」という問いを、静かに差し出しています。

答えは、まだ一つではありません。

(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1653843

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