職場で無視されると、環境にやさしくできなくなる理由

この記事の読みどころ
  • 職場で無視されると、環境にやさしい行動が減りやすいことが研究で示された。
  • 環境方針が整っていても、排除を受けている人には逆効果になる場合がある。
  • 環境への情熱を持つ人は、制度より人間関係の土台があれば行動を続けやすい。

職場で「無視されること」は、なぜ環境にやさしい行動を減らすのか

ホテルの仕事は、人と人とのやり取りで成り立っています。
フロント、清掃、レストラン、バックヤード。どの現場でも、スタッフ同士の協力や声かけが欠かせません。

同時に、ホテル業界では環境への配慮も重要なテーマになっています。
エネルギーの節約、ゴミの分別、資源の無駄を減らす工夫。こうした行動の多くは、マニュアルに細かく書かれているというより、現場で働く一人ひとりの「自発的な行動」に支えられています。

ではもし、職場で無視されたり、仲間外れにされたりしたらどうなるでしょうか。
この論文は、その問いに正面から向き合っています。

本研究は、マレーシアの UCSI University(UCSI大学)大学院ビジネススクールに所属する研究チームによって行われ、中国の四つ星・五つ星ホテルで働く従業員を対象に調査されました。

「職場での排除」という見えにくいストレス

研究で扱われている「職場での排除(ワークプレイス・オストラシズム)」とは、露骨ないじめや叱責ではありません。
話しかけても反応が薄い、会話に入れてもらえない、存在を無視されていると感じる。
そうした、日常的で曖昧な“無視”の積み重ねを指します。

こうした体験は、強いストレスになります。
自分はここにいていいのか、価値のある存在なのか。
その感覚が揺らぐと、人は仕事に対しても距離を取り始めます。

研究では、この「職場での排除」が、環境に配慮した行動を直接的に減らしていることが示されました。
無視されていると感じるほど、従業員は省エネやリサイクルなどの行動を取りにくくなっていたのです。

カギになるのは「グリーン・ワーク・エンゲージメント」

しかし、この影響は一直線ではありませんでした。
研究チームが注目したのが、「グリーン・ワーク・エンゲージメント」という心理状態です。

これは、環境に関わる仕事に対して
・前向きなエネルギーを感じているか
・意味や価値を感じているか
・集中して取り組めているか
といった点を表します。

分析の結果、職場で排除されると、このエンゲージメントが低下することがわかりました。
そして、エンゲージメントが下がることで、結果的に環境に配慮した行動も減っていく。
つまり、排除 → やる気の低下 → 環境行動の減少という流れが確認されたのです。

環境への行動は「余力」があってこそ行われる、ということが、データから浮かび上がります。

「環境に力を入れている会社」ほど逆効果になる場合もある

興味深いのは、会社の環境方針との関係です。
研究では、環境マネジメント施策がどれほど整っているかも測定しています。
たとえば、環境方針が明確か、上司が環境行動を重視しているか、制度として支援があるか、といった点です。

一般的には、こうした施策が充実している方が良いと考えられがちです。
しかし本研究では、職場で排除されている人にとっては逆に負担が強まる場合があることが示されました。

環境への期待や要求が強い職場ほど、
「自分は受け入れられていないのに、良い行動だけは求められる」
という感覚が生じやすくなり、エンゲージメントの低下がより大きくなる傾向が見られたのです。

環境制度の強さだけでは、人は動かない。
人間関係の土台が欠けていると、善意の仕組みが重荷になることもある。
この点は、非常に示唆的です。

「環境への情熱」が行動を支える

一方で、希望のある結果も示されています。
それが「環境への情熱」です。

環境問題に対して強い関心や思い入れを持つ人は、
たとえ仕事上のエンゲージメントが同程度でも、
実際の行動に結びつきやすいことがわかりました。

環境への行動が、その人自身の価値観やアイデンティティと結びついている場合、
多少の困難があっても行動を続けやすいのです。

これは、「やらされている環境対策」と
「自分が大切にしたい環境行動」の違いとも言えます。

環境行動は「制度」より「関係」の上に成り立つ

この研究が伝えている最も重要なメッセージは、
環境にやさしい行動は、制度やルールだけでは生まれない、という点です。

・職場で安心していられること
・無視されず、存在を認められている感覚
・意味を感じながら仕事に関われること

そうした心理的な土台があってはじめて、人は余分な一歩を踏み出します。

環境行動は、技術やマニュアルの問題である以前に、
人がどんな気持ちで働いているかの問題なのだと、この論文は静かに示しています。

「なぜ、うちの職場では環境行動が定着しないのか」
その答えは、ゴミ箱の数や掲示物のデザインではなく、
誰がどんなふうに扱われているか、という日常の関係性の中にあるのかもしれません。

(出典:scientific reports DOI: 10.1038/s41598-026-38569-6

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