- 安心を感じさせる合図を見たあと、「距離」や自立を表す言葉の反応が速くなる。
- 不安を感じさせる合図を見たあと、「近さ」やつながりを表す言葉の反応が速くなる。
- 対人の距離は性格に固定されず、その時の気持ちで柔らかく変わることが分かった。
ココロの「近さ」と「距離」は、どんな合図で切り替わるのか
人は、不安を感じたとき、だれかに近づきたくなることがあります。
逆に、安心しているときほど、一人でいられる余裕を感じることもあります。
こうした「近づきたい」「距離を取りたい」という感覚は、気分や性格だけで決まるものではありません。
もっと無意識のレベルで、ココロの中にある「近さ」や「距離」というイメージが、どれくらい活性化しているかが関係している可能性があります。
今回紹介する研究は、その点をとても直接的な方法で調べています。
安心を思い出させる合図と、不安定さを思い出させる合図によって、私たちのココロの中で「近さ」や「距離」に関する考えが、どのように動くのかを検証しました。
研究の背景にある考え方
この研究の土台になっているのは、**アタッチメント(愛着)**という考え方です。
アタッチメントとは、他者との関係の中で形成される「安心感」や「頼れる感覚」のことを指します。
人はそれぞれ、
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困ったときに他者を自然に頼れるタイプ
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不安になりやすく、相手の反応を強く気にするタイプ
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あまり他人に頼らず、距離を保とうとするタイプ
など、異なる傾向をもっています。
研究者たちは、こうした違いが、意識的な考えだけでなく、言葉やイメージが頭に浮かぶ速さといった、かなり自動的なレベルにも表れているのではないかと考えました。
研究はどこで行われたのか
この研究は、ポーランドの心理学研究機関を中心とした研究チームによって行われました。
参加者は大学生で、実験室でパソコン課題に取り組んでいます。
どんな方法で調べたのか
研究で使われたのは、「これは本物の単語かどうか」をできるだけ速く判断する課題です。
画面に次々と文字列が表示され、参加者はそれが意味のある単語か、意味のない文字の並びかを判断します。
この課題のポイントは、判断の速さです。
もし、ある種類の言葉がココロの中で活性化していれば、その言葉を見たときの反応は自然と速くなります。
実験ではまず、
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安心や支えを連想させる合図
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不安や拒絶を連想させる合図
のどちらかを提示しました。
その直後に、
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「近さ」を表す言葉
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「距離」を表す言葉
がランダムに表示され、反応時間が測定されました。
見えてきた結果
結果は、とても一貫したものでした。
安心を思い出させる合図を受けたあとでは、「距離」や「自立」に関係する言葉への反応が速くなりました。
一方で、不安定さを思い出させる合図のあとでは、「近さ」や「つながり」に関係する言葉への反応が速くなっていました。
つまり、
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不安を感じると、ココロは無意識に「近さ」に向かう
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安心していると、ココロは「距離」や自立を許容できる
という傾向が、言葉の処理スピードという形で確認されたのです。
ここから何が言えるのか
この研究は、「人は安心しているから誰かに近づく」のではなく、
むしろ不安なときほど、ココロは近さを求めるという構造を浮かび上がらせています。
逆に言えば、
人が距離を取っているように見える場面でも、それは「冷たい」「関心がない」という意味ではなく、
すでに十分な安心感がある状態なのかもしれません。
また、対人関係で「距離を取りたがる」「依存しないように見える」振る舞いも、
不安の欠如や自己調整の結果として理解できる可能性があります。
ココロの距離は、固定されたものではない
この研究が示しているのは、
人の対人距離の感覚が、性格のように固定されたものではなく、
その場の心理状態によって柔軟に切り替わっているという点です。
安心と不安は、行動だけでなく、
言葉が浮かぶ速さという、ほとんど意識されないレベルにまで影響しています。
私たちが「なぜ今、近づきたいのか」「なぜ今、ひとりでいたいのか」と感じるとき、
そこには必ず理由があります。
ただ、その理由は、本人でさえ気づかないほど静かに、ココロの奥で動いているのかもしれません。
結論は、ここでは閉じません。
日常の人間関係の中でふと感じる「距離感」の違和感に、
この研究の視点を重ねてみると、また別の見え方が生まれる可能性があります。
(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2026.1713752)

