- 被害を経験した人は加害をする可能性が高く、被害者と加害者が同じ人の中で重なることがある。
- 被害が増えると「それほど大きな問題ではない」と感じやすくなり、態度が変わって加害につながることがある。
- 早い支援と見方の改善が、被害の連鎖を止める可能性がある。
傷つけられた経験は、どこへ向かうのか
サイバーいじめという言葉を聞くと、多くの人は子どもや若者の世界を思い浮かべます。
しかし、スマートフォンとSNSが生活に深く入り込んだいま、ネット上での中傷や攻撃は年齢に関係なく起こっています。
韓国のチョンブク国立大学 社会福祉学部の研究チームは、中年期(40〜64歳)の大人に焦点を当て、サイバーいじめの被害経験と加害行動の関係を調べました。
この研究が静かに投げかけるのは、次の問いです。
ネット上で傷つけられた経験は、その人の行動をどのように変えていくのか。
被害者と加害者は別の人なのか
研究では、40〜64歳の男女4,105人を対象に、過去1年間のオンライン上の経験について尋ねています。
具体的には、
・暴言
・誹謗中傷
・つきまとい
・性的な嫌がらせ
・個人情報の暴露
・排除
・脅迫や強要
といった行為を、受けたか、また行ったかを測定しました。
分析の結果、明確な傾向が示されました。
サイバーいじめの被害経験が多い人ほど、加害行動を行う可能性が高い。
つまり、被害者と加害者はきれいに分かれた存在ではなく、同じ人の中で重なりうるということです。
行動のあいだにある「態度」
研究チームが注目したのは、サイバーいじめに対する態度です。
態度とは、
・サイバーいじめはどれくらい問題だと思うか
・どれくらい許されない行為だと感じているか
といった評価を指します。
調べてみると、次の流れが確認されました。
-
被害経験が増える
-
サイバーいじめに対して「それほど大きな問題ではない」と感じやすくなる
-
その結果、加害行動に及びやすくなる
被害経験は、直接的に行動へ影響するだけでなく、ものの見方を変えることで間接的にも影響しているのです。
傷つくことが、基準を下げてしまう
なぜ、このような変化が起こるのでしょうか。
研究は、オンライン空間の特徴が関係している可能性を示しています。
・相手の表情が見えない
・反応がすぐに伝わらない
・匿名性がある
こうした環境では、現実世界よりも、行為の重さを感じにくくなります。
その状態で繰り返し攻撃を受けると、
「どうせネットなんてこんなものだ」
「みんなやっている」
といった感覚が生まれやすくなります。
結果として、サイバーいじめを強く否定する基準が少しずつ下がっていく可能性があります。
サイバーいじめは循環する
この研究が示しているのは、サイバーいじめが一度きりの出来事ではなく、循環しやすい現象だということです。
被害
→ 態度の変化
→ 加害
→ 新たな被害
という流れが生まれる余地があります。
つまり、サイバーいじめは「一部の悪い人の問題」ではなく、誰の中にも起こりうる変化として捉える必要があります。
早い段階での支援の重要性
被害経験が、将来の加害行動と結びつくのであれば、早期の対応が重要になります。
傷ついた直後に、
・話を聞いてもらえる
・相談できる
・支援につながる
こうした機会があるかどうかで、その後の心の向きは変わります。
研究は、被害への支援が、結果的に次の被害者を生まないことにもつながる可能性を示唆しています。
行動だけでなく「見方」に働きかける
この研究が伝えている重要なメッセージは次の点です。
サイバーいじめの対策は、行動を止めることだけでは不十分である。
その人が、
・サイバーいじめをどう捉えているのか
・どこまでを許されないと感じているのか
という**見方(態度)**にも目を向ける必要があります。
終わりに
ネット上で傷つく経験は、心に静かな変化を残します。
その変化は、ときに、自分でも気づかないうちに行動の方向を変えてしまいます。
この研究は、サイバーいじめを
「被害」と「加害」という二つの箱に分けるのではなく、
人の中で連続して起こるプロセスとして捉える視点を示しています。
わからなくても、理由はある。
その理由に目を向けることが、静かな予防につながっていくのかもしれません。
(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2026.1753887)

