- 研究では65歳以上の527人が共感的ロボットと冷たいロボットを比べ、共感的ロボットは自分が認められていると感じやすいことが分かった。
- 賞賛を求める人は共感で承認感を高く感じやすく好意も高まる一方、防衛的なライバルリーが高い人には共感が脅威になることもある。
- ロボットは心を映す鏡のようで、共感を増やすだけでなく、距離感や相手の性格に合わせることが大切だ。
鏡としてふるまうロボット
――共感的な支援ロボットは、誰にとって「やさしい存在」なのか
高齢者の生活を支える存在として、共感的にふるまうソーシャルアシスティブロボットへの期待が高まっています。声のトーンがやわらかく、相手の状態に気づき、気づかう言葉を返してくれるロボットは、人の孤立を和らげ、安心感をもたらす存在として語られてきました。
しかし、本当に「共感的なロボット」は、すべての人にとって望ましい存在なのでしょうか。
この問いに正面から向き合ったのが、イスラエルの**Jerusalem Multidisciplinary Collegeと、アメリカのOakland University**の研究者らによる研究です。本研究は、共感的にふるまうロボットと、あえて感情を示さない「冷たい」ロボットを比較し、高齢者がそれぞれをどのように評価するのかを、人格特性との関係から詳しく検討しました。
研究の中心に置かれたのは、「共感」そのものではなく、「自分が認められたと感じるかどうか」という、より内面的な体験でした。
研究の焦点は「認められている感覚」
この研究で重要な役割を果たすのが、「知覚された承認(パーシーブド・レコグニション)」という概念です。これは、相手から単に親切にされるかどうかではなく、「自分という存在が見られている」「価値ある個人として扱われている」と感じられるかどうかを指します。
研究者たちは、ロボットが示す共感的なふるまいが、この承認感覚を通して評価に影響するのではないかと考えました。そして、その影響は、人の人格特性、とくにナルシシズムのあり方によって大きく異なる可能性があると仮定しました。
ナルシシズムは一枚岩ではない
本研究では、ナルシシズムを一つの性格として扱っていません。代わりに、次の二つの側面に分けて捉えています。
ひとつは「ナルシシスティック・アドミレーション」です。これは、自分を価値ある存在として示したい、評価されたいという志向を指します。自信や自己主張と結びつきやすい特徴です。
もうひとつは「ナルシシスティック・ライバルリー」です。こちらは、否定されたり軽視されたりすることへの過敏さ、防衛的な態度、対立への敏感さと関係します。
同じナルシシズムでも、前者は賞賛を求め、後者は脅威を避けようとする傾向が強いとされています。
共感的なロボットは、承認を高めた
研究には、65歳以上の高齢者527人が参加しました。参加者はランダムに二つの条件に割り当てられます。
一方は、声のトーンがやさしく、相手の状態に気づき、安心させる言葉をかける「共感的なロボット」。もう一方は、必要最低限の応答のみを行い、感情的な配慮を示さない「冷たいロボット」です。
結果として、平均的には、共感的なロボットのほうが「自分は認められている」と感じられやすく、人間らしさや好感度も高く評価されました。この点だけを見ると、従来の期待どおりの結果と言えます。
しかし、ここから先がこの研究の核心です。
賞賛志向の人は、ロボットに「映る」
ナルシシスティック・アドミレーションが高い人ほど、ロボットから承認されていると感じやすいことが明らかになりました。そして、その承認感覚を通して、ロボットをより好意的に評価する傾向が見られました。
重要なのは、この傾向が、ロボットが共感的であっても冷たくても、基本的に一貫していた点です。つまり、賞賛を求める志向の強い人は、ロボットを「自分を映す鏡」として受け取りやすく、そこに肯定的な意味を見出しやすいと考えられます。
防衛的な人にとって、共感は脅威になることもある
一方で、ナルシシスティック・ライバルリーが高い人では、まったく異なるパターンが現れました。
共感的なロボットと接したとき、ライバルリーの高い人ほど、「認められている」という感覚が弱まり、ロボットへの評価も低くなる傾向が見られたのです。
逆に、冷たいロボットの場合には、ライバルリーが高い人ほど、承認感覚がやや高まり、評価も相対的に改善しました。
これは直感に反する結果です。一般には「共感的であるほど良い」と考えられがちですが、防衛的な傾向をもつ人にとっては、共感的なふるまいそのものが、評価や干渉として受け取られ、脅威になる可能性が示されました。
共感を差し引いたあとに残るもの
さらに興味深いのは、承認感覚とナルシシズムの影響を統計的に差し引いたあと、冷たいロボットのほうが「賢そう」「安全そう」「使いたい」と評価される場面があった点です。
これは、共感的なふるまいが常にプラスに働くわけではなく、ときに余計な意味づけや緊張を生むことを示唆しています。感情を示さないロボットのほうが、距離感が保たれ、安心できると感じる人もいるのです。
ロボットは心を映す鏡になる
研究者たちは、これらの結果を「ミラー効果」と表現しています。ロボットは一方的に人を支える存在ではなく、そのふるまいを通して、利用者自身の自己調整のあり方を映し出す鏡になる、という考え方です。
共感的なロボットは、人の承認欲求を満たすこともあれば、逆に不安や防衛を刺激することもあります。そこに「正解」はなく、重要なのは、利用者の特性とロボットのふるまいが、どのように噛み合うかという点です。
「やさしさ」は一様ではない
この研究は、高齢者支援ロボットの設計に対して、静かな問いを投げかけています。
やさしさとは何か。共感とは誰のためのものなのか。そして、技術が人の心に近づくとき、どの距離感が適切なのか。
共感を増やせばよい、感情を再現すればよい、という単純な発想では、人の多様な心のあり方には応えきれないのかもしれません。ロボットは、万能の癒やし手ではなく、ときに人の内面をそのまま映し返す存在でもあるのです。
この研究は、そうした複雑さを否定せず、丁寧に見つめ直す必要性を示しています。
(出典:Behavioral Sciences)

