- 夢には文化の価値観が映り込み、自己のとらえ方が夢の形として現れることがある。
- アメリカは独立的自己観が強く、夢で積極的に行動する場面が多い、日本は相互協調的自己観が重く傷つく場面が多い、中国はその中間の特徴と周囲の支えが目立つ。
- 自己観と不安の結びつき方は国ごとに違い、中国では両者が同時に存在するのに対し、日本とアメリカでは対立的で不安との関連も強い。
文化は、夢の中にも入り込む
人は眠っているあいだ、現実から切り離された映像や物語を見ているように感じます。しかし、その夢の内容は、完全に個人的なものではありません。夢の中での自分の立ち位置、他者との関係、行動の仕方には、私たちが日常生活で身につけてきた文化的な価値観や「自己のとらえ方」が、静かに反映されている可能性があります。
この論文は、中国・日本・アメリカという三つの文化圏を対象に、「自己をどうとらえるか」という文化的傾向が、夢の構造にどのように表れるのかを実証的に検討しています。夢という極めて私的で無意識的な体験を通して、文化の違いを捉え直そうとする試みです。
自己のとらえ方という文化的枠組み
心理学では、自分自身をどのような存在として感じているかを「自己観」と呼びます。特に文化心理学では、自己観は大きく二つに整理されてきました。一つは、他者や状況から比較的独立した存在として自分をとらえる独立的自己観です。もう一つは、周囲の人や環境との関係の中で自分を定義する相互協調的自己観です。
アメリカでは独立的自己観が重視されやすく、日本や中国では相互協調的自己観が重視されやすいとされてきました。ただし近年の研究では、東アジアの中でも文化は一様ではなく、中国と日本のあいだにも重要な違いが存在することが指摘されています。この論文は、そうした地域内の差異にも焦点を当てています。
夢は自己を映す鏡なのか
研究者たちは、夢を単なるランダムな映像の集まりではなく、一種の物語として捉えます。夢の中には「夢の中の自分」、いわば主人公としての自己が登場し、他者と関わり、行動し、時には傷つき、時には何もできずに終わります。
この研究では、夢に登場する自己の行動力や立場、他者との関係性を分析することで、文化的な自己観が夢の構造にどのように反映されているかを検討しました。
研究の進め方
調査には、中国の成人参加者に新たに集められたデータが用いられました。これに、日本とアメリカで過去に収集された同一形式のデータを加え、三か国の比較が行われています。参加者は、子どものころに強く印象に残っている夢と、最近見た印象的な夢について自由に記述しました。
あわせて、自己観に関する質問紙、他者からどう見られるかへの不安傾向を測る尺度、自己のまとまり感を測る尺度にも回答しています。
文化ごとに異なる夢の構造
夢の構造を比較すると、三つの文化のあいだに明確な違いが見られました。アメリカの夢では、夢の中の自分が積極的に行動し、脅威に立ち向かったり、目標を達成したりする場面が多く見られました。
日本の夢では、夢の中の自分が傷ついたり、存在感が薄れていったりする場面が比較的多く、自己の行動力が弱く描かれる傾向がありました。
中国の夢は、その中間ともいえる独自の特徴を示しました。試験や課題に取り組む場面が多く、家族や周囲の人から肯定的に支えられる場面が目立ちました。
自己観と不安の結びつき方
質問紙調査の結果、中国では独立的自己観と相互協調的自己観が対立せず、同時に存在していました。一方、日本とアメリカでは、両者は対立的な関係にありました。
また、日本とアメリカでは自己観と対人不安が強く結びついていましたが、中国では明確な関連が見られませんでした。
夢から見えてくる文化と自己
夢は無意識の産物でありながら、文化から自由ではありません。夢の中での自己のあり方は、日常で育まれた価値観や人との関係性を静かに映し出しています。
この研究は、文化が人の内面にどこまで深く入り込み、無意識の物語にまで影響を与えているのかを示しています。
(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1688407)

