- イランの公務員約4000人を対象に、強迫性障害(OCD)とスマホ依存の関係を調べた。
- OCDがある人はスマホ依存になりやすく、日常の乱れや通知への期待、オンラインでのつながりを重視する傾向が強かった。
- 因果関係は分からず、OCDが原因かスマホの仕組みが原因かはまだ不明で、追跡研究が必要とされた。
スマートフォンは、なぜ手放せなくなるのか
スマートフォンは、仕事にも私生活にも欠かせない道具になりました。連絡、情報収集、娯楽、そして人とのつながりまで、ほとんどすべてが一台に集約されています。
便利である一方で、「気づくと何度も画面を見てしまう」「用もないのに手が伸びる」と感じる人も少なくありません。
では、この“やめたくてもやめられない感じ”は、どこから来るのでしょうか。
イランで行われた大規模な職域研究は、その背景に**強迫性障害(OCD)**という心の特性が関わっている可能性を示しました。
調べられたのは、イランの公的機関で働く人たち
この研究は、イラン大学医科学研究所が主導する「イラン職域健康コホート研究(EHCSIR)」のデータを用いて行われました。
対象は、テヘラン州の学校、病院、保健センター、省庁などで働く公的部門の職員です。
分析に含まれたのは、スマートフォンを所有し、必要な調査項目をすべて回答した約4,000人でした。平均年齢は40代前半で、男女ともに含まれています。
この規模と職業の多様性は、これまでの学生中心の研究とは大きく異なる点です。
強迫性障害とスマートフォン依存をどう測ったのか
研究では、二つの異なる側面が慎重に評価されました。
一つは**強迫性障害(OCD)**です。
これは、頭に浮かぶ不安な考えやイメージを打ち消すために、同じ行動を何度も繰り返してしまう状態を指します。
本研究では、世界保健機関が開発した国際的な診断面接法を用い、生涯のどこかでOCDの診断基準を満たしたかどうかが判定されました。
もう一つはスマートフォン依存です。
単に使用時間が長いかどうかではなく、
・日常生活への支障
・使えないときの落ち着かなさ
・使うことで気分が高まる感覚
・やめようとしてもやめられない過剰使用
など、複数の側面から評価されています。
強迫性障害がある人は、スマートフォン依存になりやすい
分析の結果、はっきりした傾向が見えてきました。
生涯に強迫性障害があった人は、なかった人に比べて、スマートフォン依存と判定される確率が約2倍以上高かったのです。
年齢、性別、学歴、職種、経済状況といった要因を調整した後でも、この関連は変わりませんでした。
重要なのは、この関係が「一部の項目だけ」でなく、依存を構成する複数の側面にまたがっていた点です。
どんな使い方と特に結びついていたのか
強迫性障害と関連が強かったのは、次のような特徴でした。
まず、日常生活の乱れです。
仕事や家庭の時間が削られてしまう感覚が強い人ほど、OCDとの関連が見られました。
次に、スマートフォンを使うことで先に楽しみを期待する感覚です。
通知や新しい情報への期待が、繰り返し端末を確認する行動につながっている可能性があります。
さらに、使えないときの不安や落ち着かなさ、そして使いすぎも強く結びついていました。
興味深いのは、オンライン上の人間関係への強い傾きです。
現実の対人関係よりも、デジタル空間でのつながりに重心が移る傾向が、強迫性障害のある人で目立っていました。
一方で、「同じ刺激では満足できなくなる」という耐性の側面は、統計的には明確な関連を示しませんでした。
どちらが原因かは、まだわからない
この研究は横断的な調査であるため、因果関係まではわかりません。
つまり、
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強迫的な思考や確認行動が、スマートフォン使用を増やしているのか
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スマートフォンの仕組みそのものが、強迫的な行動を強めているのか
その順序は断定できません。
研究者たちは、両方向の可能性を慎重に考えています。
OCDの特徴である「確認せずにはいられない感覚」が、通知やメッセージの確認行動と結びつくことも考えられますし、逆に、常時接続を前提としたデジタル環境が、強迫的な思考パターンを強めている可能性もあります。
デジタル時代の強迫という視点
研究の考察では、現代ならではの強迫の形にも触れられています。
たとえば、デジタル上での情報や画像を手放せなくなる状態は、従来の「ため込み」と似た性質を持つかもしれません。
また、対人関係での困難を感じやすい人にとって、オンライン空間は「管理しやすく、コントロール感のある関係」を提供します。
それが一時的な安心につながる一方で、現実の孤立を深める循環を生む可能性もあります。
職場と心の健康を考えるヒント
この研究は、職場のメンタルヘルスにも示唆を与えます。
強迫性障害のある人が、集中力の低下や業務効率の問題としてスマートフォン使用の困難を抱えることは、十分に考えられます。
単に「使いすぎをやめましょう」と促すのではなく、背景にある不安や強迫的な傾向に目を向けること。
それが、デジタル時代の現実的な支援につながる可能性があります。
まだ残されている問い
この研究は、精神的な特性がデジタル行動に影響することを、比較的大きな集団で示しました。
一方で、時間の経過とともに何が起きているのか、どの要因が間に入っているのかは、今後の追跡研究を待つ必要があります。
スマートフォンが当たり前になった社会で、私たちの行動はどこまで「自分の意志」で、どこから「仕組み」に導かれているのか。
その境界は、思っているより曖昧なのかもしれません。
(出典:BMC Psychology DOI: 10.1186/s40359-025-03913-4)

