返事に絵文字があると、人は何を読み取っているのか

この記事の読みどころ
  • 絵文字があるだけで、同じ内容の文章でも応答的に感じられやすくなる。
  • 顔の絵文字かどうかは重要でなく、絵文字が添えられている事実そのものが効果に関係していた。
  • 応答性を感じることが親しさや関係の満足度につながり、絵文字はその手がかりになる。

返事に絵文字があるだけで、なぜ関係は変わるのか

テキスト時代の「わかってもらえた感」の正体

スマートフォンでのやり取りは、いまや人間関係の中心にあります。
短い文章、スタンプ、既読表示、そして絵文字。
私たちは日々、文字だけのやり取りを通して、相手の気持ちや距離感を測っています。

その中で、多くの人が感覚的に知っていることがあります。
同じ内容でも、文末に絵文字がひとつ添えられているだけで、
「ちゃんと向き合ってくれている感じ」が強くなる、という感覚です。

この感覚は、気のせいなのでしょうか。
それとも、人間関係の質に本当に影響しているのでしょうか。

アメリカのテキサス大学オースティン校コミュニケーション学部による研究は、
この問いに対して、実験データをもとに静かな答えを示しています。


研究が注目したのは「感じられる応答性」

この研究が中心に据えた概念は、「パートナー応答性」です。
これは、相手が
・自分の話を理解してくれている
・大切に扱ってくれている
・きちんと反応してくれている
感じられるかどうかを指します。

重要なのは、実際にどれほど丁寧な行動を取ったかではありません。
そう感じられたかどうかが、人間関係の満足度に強く関わることが、
これまで主に対面コミュニケーションの研究で示されてきました。

では、表情も声色もないテキストメッセージの世界では、
人は何を手がかりに「応答性」を判断しているのでしょうか。


実験:同じ文章、違うのは絵文字だけ

研究チームは、260人の参加者を対象にオンライン実験を行いました。
参加者は「親しい友人とテキストでやり取りしている」という想定で、
15パターンの短い会話を読みます。

ここで工夫された点があります。
文章の内容は完全に同じで、違うのはただ一つ。

・文字だけの返信
・文字と絵文字を組み合わせた返信

このどちらかが、ランダムに提示されました。

参加者はそれぞれのやり取りについて、

・相手はどれくらい応答的に感じられたか
・どれくらい好感を持てたか
・どれくらい親しさを感じたか
・関係全体にどれくらい満足できそうか

を評価しました。


結果①:絵文字があるだけで「応答的」に見える

結果は非常に明確でした。

絵文字が含まれている返信は、文字だけの返信よりも、
一貫して「応答的」だと評価された
のです。

内容が同じであっても、
絵文字があるだけで
「ちゃんと向き合ってくれている人」に見える傾向が、
はっきりと確認されました。


結果②:顔の絵文字かどうかは重要ではなかった

研究では、絵文字の種類にも注目しています。

・表情をもつ顔の絵文字
・物や記号など、顔ではない絵文字

感情表現が豊かな顔の絵文字のほうが効果的なのでは、
と考えたくなります。

しかし実際には、
顔かどうかによる違いはほとんど見られませんでした。

重要だったのは、
どんな絵文字かではなく、
絵文字が添えられているという事実そのものでした。


応答性は、関係の質をどう変えたのか

次に研究チームは、
「応答的に感じられたこと」が、その後の評価にどう影響したかを分析しました。

親しさとの関係

相手を応答的だと感じた参加者ほど、
「この人とは親しい関係になれそうだ」と評価していました。

絵文字の使用は、
応答性を高め、
その応答性が親しさの感覚につながっていました。

関係満足度との関係

同様に、
応答性が高いと感じられるほど、
その関係全体への満足度も高く評価されていました。

ここで重要なのは、
絵文字が直接、満足度を高めたわけではないという点です。

絵文字はまず、
「この人はちゃんと反応してくれている」という感覚を生み、
その感覚を通して、満足度が高まっていたのです。


好感度だけは少し複雑だった

一方で、「好感が持てるかどうか」については、
少し違う結果が示されました。

応答性が高いほど好感度も上がる傾向はありましたが、
統計的には、明確な直接関係とは言えませんでした。

ただし、
絵文字 → 応答性 → 好感度
という間接的な流れは確認されています。

つまり、
絵文字そのものが好感を生むというより、
応答的だと感じられることを通して、
結果的に好感が高まっていた、という構造でした。


年齢や性別、絵文字の慣れは関係なかった

この効果は、特定の人に限られたものではありませんでした。

研究では、

・年齢
・性別
・ふだんどれくらい絵文字を使うか

といった要因も検討されましたが、
いずれも大きな違いは見られませんでした。

絵文字に慣れている人だけが影響を受けたわけではなく、
誰にとっても、絵文字は応答性の手がかりになっていたのです。


なぜ、たった一つの絵文字が効くのか

研究者は、この結果を次のように解釈しています。

テキストメッセージでは、

・表情
・声の調子
・うなずきや間

といった非言語的な反応が、すべて失われています。

絵文字は、その空白を埋める
ごく小さな非言語サインとして機能している可能性があります。

強い感情表現である必要はありません。
「受け取ったよ」「ここにいるよ」という
最低限の視覚的な合図で十分だったのです。


デジタル時代の関係性が示すこと

この研究は、
「絵文字を使えば仲良くなれる」という単純な話をしているわけではありません。

示されているのは、
人間関係において重要なのは、
何を言ったか以上に、
どう受け止められたかだという事実です。

そしてデジタル空間では、
絵文字という小さな記号が、
「わかってもらえた感」を支える重要な手がかりになっている。

テキストが主役の時代になっても、
人はなお、相手からの「応答」を求め続けている。
この研究は、そのことを静かに示しています。

(出典:PLOS One DOI: 10.1371/journal.pone.0326189

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