- 一対一のやりとりだけだと決まらずデッドロックになるが、複数人が同時に関わると自然にどちらかに動きやすくなる。
- 自発的に選ぶ人は少しは必要だが、多すぎると最終的な合意が弱まる。
- 集団の「場」のつくり方(会議や雑談などの周り方)が意思決定を大きく左右する。
同じ価値の選択肢があるとき、私たちはなぜ決められないのか
人が集団で何かを決めるとき、私たちはしばしば「話し合えば自然に結論が出る」と考えがちです。
しかし現実には、意見が割れたまま動かなくなる場面も少なくありません。
特に、どちらを選んでも同じくらい良さそうな選択肢が並んだとき、集団は意外なほど決断できなくなります。
この問題に対して、スペインのポリテクニック大学カタルーニャ校と、バルセロナ大学およびバルセロナ大学複雑系研究所の研究チームは、「人と人の関わり方の形」が決断の成否を左右する可能性を示しました。
研究の結論はシンプルです。
一対一のやりとりだけでは、集団は決めきれない。
しかし、複数人が同時に関わるやりとりが加わると、集団は自然にどちらかを選び始める。
これまでのモデルが前提としてきた「一対一の影響」
これまでの多くの意見形成モデルでは、次のような前提が置かれてきました。
・AさんがBさんに話しかける
・BさんがCさんに話しかける
つまり、影響は常に一対一で伝わるという考え方です。
この枠組みは、感染症の拡大やうわさの広がりなど、単純な拡散現象を説明するには十分でした。
しかし、実際の社会では、
・複数人で同時に話す
・会議や雑談の輪ができる
・グループの空気をまとめて感じ取る
といった集団単位のやりとりが日常的に起こっています。
研究チームは、「こうした集団的なやりとりをモデルに入れなければ、現実の意思決定は説明できないのではないか」と考えました。
研究の基本的な設定
研究では、人々を次の三つの状態に分けて考えます。
・まだ何も選んでいない人
・選択肢Aを支持している人
・選択肢Bを支持している人
そして、人は次の三つの方法で状態を変えます。
① 自分で考えて選ぶ
周囲の影響とは関係なく、
「なんとなく良さそう」と感じてAやBを選ぶことがあります。
研究ではこれを自発的な採用と呼びます。
② 一対一のやりとりで影響を受ける
Aを選んでいる人が、
まだ決めていない人に話しかけ、Aを勧める。
これがペアのやりとりです。
③ 複数人が同時に影響を与える
Aを選んでいる人が二人以上いて、
同時に同じ人へAを勧める。
これが集団的なやりとりです。
一対一だけだと起こる「決断の停止」
研究チームがまず調べたのは、
ペアのやりとりだけが存在する世界です。
その結果、次のことが分かりました。
・A派とB派が同じくらい存在する
・どちらも決定打にならない
・長時間たっても優劣がつかない
つまり、**膠着状態(デッドロック)**が生じます。
誰かが少し増えても、
すぐに反対側も増え、結局元に戻るのです。
集団的なやりとりが入ると何が変わるのか
ここに、複数人が同時に影響を与える仕組みを加えると、状況は一変します。
・ある瞬間、A派がわずかに多くなる
・A派が集団として影響を与える
・さらにA派が増える
このように、小さな偏りが増幅されるようになります。
結果として、
・AかBのどちらか一方が
・集団の大多数を占める
という状態に自然と移行します。
研究チームは、**集団的なやりとりが対称性を破る(シンメトリーブレイキング)**と表現しています。
自分で選ぶ行動は「ノイズ」として働く
自発的に選ぶ人が多いほど、
・少数派が完全には消えない
・最終的な一致の度合いは弱くなる
ことも分かりました。
ただし、完全に自発的な選択がないと、
そもそも議論が始まりません。
つまり、
少量の自発性は必要だが、多すぎると合意は弱まる
というバランスが存在します。
数式だけでなくシミュレーションでも確認
研究チームは、
・ランダムに作った人工ネットワーク
・実際の学校や職場の対面データをもとにしたネットワーク
の両方でシミュレーションを行いました。
どのケースでも、
・集団的なやりとりがあると合意が生まれる
・ない場合は膠着する
という同じ傾向が確認されました。
この研究が示していること
この研究が示しているのは、
集団が賢くなるために特別なリーダーは必ずしも必要ない
ということです。
代わりに重要なのは、
・一対一だけでなく
・複数人が同時に関わる場があること
です。
会議、雑談、オンラインのスレッド、グループチャットなど、
私たちが日常的に使っている「場」の構造そのものが、
意思決定の質を左右している可能性があります。
人間社会だけでなく人工システムにも関係する
研究チームは、この仕組みが
・ロボットの群れ
・分散型AI
・自律的な意思決定システム
の設計にも役立つと述べています。
中央で管理しなくても、
集団的な相互作用をうまく設計するだけで、自然に結論へ収束するシステムが作れる可能性があるからです。
まとめ
・一対一のやりとりだけでは決断できない
・複数人が同時に影響し合うと決断できる
・集団の「形」が意思決定を左右する
この研究は、
私たちがなぜ迷い続けるのか、
そしてどうすれば自然に決まるのかを教えてくれます。
決められないのは、
あなたや集団の「意志の弱さ」ではなく、
関わり方の構造の問題なのかもしれません。
(出典:npj complexity DOI: 10.1038/s44260-026-00071-5)

