- 現実に近い課題として、ノイズのある数字を8択から選ぶ実験をした。
- 自信は「正解の確率を計算する」よりも、「最もよさそうな答えと次によさそうな答えの差」が大きいほど高くなると説明された。
- その差を再現するために、ニューラルネットRTNetを使って人の判断をモデル化した。
自信は「どれだけ当たっていそうか」ではなく、「どれだけ迷わなかったか」なのか
人は何かを選んだあと、自然に「自信」を感じます。
テストの選択問題でも、道に迷ったときの判断でも、相手の表情を読み取るときでも、「これは合っている気がする」「これは少し不安だ」という感覚が生まれます。
心理学や認知科学では、この感覚を決定に対する自信として長く研究してきました。
しかし、これまでの研究には大きな偏りがありました。
ほとんどの研究は、「AかBか」という二択で、しかも単純な刺激を使った実験に限られていたのです。
現実の判断は、もっと複雑です。
選択肢は複数あり、刺激は自然で、はっきりした正解が見えないことも多い。
そうした状況で、人はどのように「自信」を作っているのか。
この問いには、まだ十分な答えがありませんでした。
この研究は、その空白に踏み込んだものです。
八つの選択肢から数字を当てるという現実に近い課題
研究を行ったのは、ジョージア工科大学の心理学研究チームです。
実験に参加した人たちは、ノイズがかかった手書き数字の画像を見せられました。
数字は1から8までのいずれかです。
参加者は、
「どの数字だと思うか」を選び、
そのあとで「自分の判断にどれくらい自信があるか」を4段階で報告しました。
この課題には、二つの操作が加えられていました。
一つは難しさです。
ノイズが少ない画像と、多い画像が用意されました。
もう一つは判断の方針です。
できるだけ速く答えるよう求められる条件と、できるだけ正確に答えるよう求められる条件がありました。
選択肢は8つ、刺激は複雑、判断条件も変化する。
これまでの自信研究と比べて、かなり現実に近い状況が作られていました。
人の判断をよく再現するニューラルネットワーク
この研究の大きな特徴は、人のデータだけを見るのではなく、人の判断を再現できる人工モデルを使っている点にあります。
研究チームは、以前に開発した「RTNet」というニューラルネットワークを用いました。
このモデルは、人の反応時間や誤り方の特徴をよく再現できることが確認されています。
RTNetには、二つの仕組みがあります。
一つは、画像を処理するニューラルネットワークです。
ただし、毎回同じ計算をするのではなく、内部に揺らぎがあり、同じ画像を見ても反応が少しずつ変わります。
もう一つは、証拠をためていく仕組みです。
各選択肢について、「これが正しそうだ」という証拠が少しずつ積み重なり、ある基準を超えたところで判断が下されます。
この仕組みによって、
どの選択をするか
どれくらい時間がかかるか
という点が、人とよく似た形で再現されます。
「自信」はどう計算されているのか
研究者たちが注目したのは、自信がどのような計算で生まれるのかという点です。
そこでRTNetの中に、七通りの「自信の作り方」を組み込みました。
そして、それぞれが人の自信の出方をどれだけ説明できるかを比較しました。
考え方には違いがあります。
・すべての選択肢の情報を使う方法
・選んだ答えだけを見る方法
・一部の選択肢だけを見る方法
また、
・生の証拠をそのまま使う方法
・確率に変換してから使う方法
という違いもあります。
その中で特に重要なのが、「最も有力な二つの選択肢の差」だけを見る方法です。
この方法では、「一番それっぽい答え」と「次にそれっぽい答え」の差が大きいほど、自信が高くなります。
数字で比べると、結果ははっきりしていた
統計的な比較の結果は、非常に明確でした。
最も有力な二つの選択肢の差だけを見る方法が、他のすべての方法よりも、人の自信の出方をよく説明していました。
すべての情報を使う方法や、確率を計算する方法は、期待されたほど人のデータに合いませんでした。
特に、「選んだ答えの確率がそのまま自信になる」という考え方は、人の自信をうまく説明できませんでした。
数値上でも、この差は圧倒的でした。
この方法は、他の方法と比べて、はるかに強く支持される結果になりました。
正解したときと、間違えたときの自信の違い
人の自信には、よく知られた特徴があります。
課題が簡単になると、
・正解したときの自信は高くなる
・間違えたときの自信は逆に低くなる
この関係は、折れたX字のような形になるため、重要な指標とされています。
研究の結果、この特徴を自然に再現できたのも、「二つの選択肢の差」を見る方法でした。
他の方法では、特に間違えたときの自信が不自然に高くなってしまう傾向がありました。
「間違えたのに自信が高い」を説明できるか
さらに研究者たちは、数字の種類ごとの違いにも注目しました。
人のデータでは、
・ある数字は見分けやすく、自信が高い
・別の数字は紛らわしく、自信が下がりやすい
といった細かな差が見られました。
このような微妙な違いを、最も正確に再現できたのも、二つの選択肢の差を見る方法でした。
他の方法では、間違えているのに自信が高すぎる予測が頻繁に見られました。
自信は「確率計算」ではなかった
この研究が示した最大の結論は、次の点です。
人の自信は、
「自分の答えが正しい確率を計算した結果」
ではなさそうだ、ということです。
むしろ、
「一番よさそうな答えと、次によさそうな答えの差がどれくらいあったか」
という、非常に限られた情報に基づいて、自信が生まれている可能性が高い。
この方法は計算としては単純ですが、
選択肢が多く、状況が複雑なときには、現実的で効率のよい方法でもあります。
ニューラルネットワークは、人の心を映す道具になるのか
この研究は、人工知能を人の代わりにするものではありません。
むしろ、人の行動からは直接見えにくい「計算のしかた」を、逆に浮かび上がらせるための道具として使っています。
その結果、人の自信は、思っていたよりもずっと局所的で、単純な仕組みによって支えられている可能性が示されました。
自信とは、「迷いの差」なのかもしれない
自信は、深い確率計算の結果ではなく、
「どれくらい他の選択肢と競っていたか」
という感覚的な差から生まれているのかもしれません。
それは、私たちが日常で感じている
「なんとなく確か」
「少し引っかかる」
という感覚に、意外なほど近い姿です。
わからなくても、理由はある。
この研究は、その「理由」をはっきりと示しています。
(出典:PLOS Computational Biology DOI: 10.1371/journal.pcbi.1013827)

